学園一の美少女に入れ替わってしまった俺は、悪役令嬢なんかになりたくないッッ!
じゃがマヨ
プロローグ
朝の空気が、やけに爽やかだった。
いや、たぶん爽やかだった気がした、だけだ。
本当は寝坊した俺が焦って飛び出したせいで、空の色なんか見てる暇もなかった。
それでもたぶん、今朝の空はちょっとだけ特別だったのかもしれない。
だって俺、女子高生になっちまったんだから。
いや、説明しよう。お前誰だよって話だよな。
俺の名前は佐藤蓮(さとう れん)、高校二年。
彼女いない歴=年齢。顔は中の下。運動神経も並。家は貧乏。
最寄駅まで徒歩20分、アパートは築40年で、朝シャワーを浴びようとすれば排水溝から「コンニチハ☆」って虫が出てくるようなレベル。
つまり、生きる庶民代表だ。
そんな俺が、なぜか今――
光沢のある金色の髪をなびかせて、明らかに素材のいいシャンプーの香りを振りまきながらぴっちりした女子制服を着ている。
胸にふわふわの塊をぶらさげて、である。
「……これ、夢だよな?」
思わず呟いたその声が、やけに可愛らしかった。
ガラス細工みたいに高くて、品があって、しかも語尾がほんのり優雅。
間違っても、今朝まで“冷凍ごはんに醤油”をかけて食ってた男の声じゃねぇ。
話は遡ること数十分前。
母ちゃんはとっくに仕事に出ていて、アパートの壁越しには隣室のジジイの咳払い。
冷蔵庫を開ければ空っぽで、レンチンごはんに醤油ぶっかけたのを流し込んだ瞬間、俺は悟った。
「今日も遅刻だ」
制服のシャツを片腕だけ通して、カバンは肩に半分引っ掛けたまま家を飛び出す。
駅までの道は地獄の登り坂。おまけに空気が妙に生ぬるい。
俺の脳内では「滑るな、転ぶな、死ぬな」が呪文のようにループし続けていた。以前急ぎすぎてすっ転んだ苦い記憶があったからだ。
この時点の俺は、まだ知らなかった。
あと数分後で人生が「ギャグマンガ日和」レベルに脱線することを。
いや、もっと言えば、あと数段で階段じゃなくて運命を踏み外すことになるなんて、知る由もなかったのだ。
シャツのボタンは閉まらずベルトの穴は迷子。そんな半分寝ぼけた状態で俺はとにかく走っていた。
ハアッハアッハアッ
駅の階段を駆け上がろうとした、そのときだった。
ドンッ!!!
衝撃。というか、物理的破壊音。
真正面から猛スピードで誰かとぶつかり、俺の額と相手の額がカウンタークラッシュした。
例えるなら、空き缶を全力で踏み潰したときの「パゴォンッ!」みたいな音。
「ぐぉっ……!?」
俺は一瞬で階段を転げ落ち、天井の照明がぐるぐる回って見えた。
そして、次の瞬間――俺は目を見開いた。
目の前に“俺”がいた。
「……え?」
“俺”が眉をひそめた。そして、ボロい制服を見下ろして呟く。
「ちょっと……なにこれ、なんで私が……男子校の制服……?」
おい、待て。
俺は震える手で胸元を見下ろす。
そこには……ある。あるんだよ……未知のふくらみが!!
しかもそのYシャツ、明らかにボタンの閉まりが苦しそうなんだ。
そっと手を当ててみると――
「……やっべ、ふわっふわ……!」
ぷにっとした感触。アウトー!!!
これは夢じゃない。確信した。現実だ。現実にしては地獄すぎる。
「ど、ど、どどう見ても、女子高生の身体じゃねぇかああああああああああ!!!」
俺の悲鳴が、構内にこだました――と思ったら、周りの人々はスマホに夢中で気にも留めていなかった。
ありがとう現代人。おかげで誰にも通報されずに済んだ。
そして、この時入れ替わっていたのが――天城レイナ。
俺はこの時彼女の存在を知らなかったが、どうやらテレビに出たこともある“プチ芸能人”らしい。ネットで検索したら100万件ヒットする、超有名人だそうだった。
名門・白百合女学院の女王様。顔面偏差値は“神”、学力は全国模試で常にトップ10、
しかも家は巨大企業「天城グループ」の一人娘。
まさに選ばれし血統の、スーパー美少女。
が、しかし。
その天城レイナ、学園内では“悪役令嬢”として恐れられている存在だった。
メイドのような取り巻きを従え、教師も逆らえず、同級生たちは遠巻きに「氷の女王」と呼ぶ。
SNSでは「天城さんに目を合わせたら睨まれた」とか「正面から話しかけたら凍死する」とか、
もはや都市伝説レベルの噂が飛び交っている。
……なあ、聞いてくれ。
そんなヤベー女の身体に、俺は今、入ってる。
しかもお嬢様学校に通わなきゃいけないし、
いつ入れ替わりが戻るかもわかんないし、
ていうか、もうすぐホームルーム始まるし!!!
「うわあああああ!! 俺、悪役令嬢になりたくねぇえええええ!!!」
こうして俺の、
“平凡男子から最恐美少女への転落ライフ”が始まった。
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