再戦ならず

今度こそ最後の一線を越えたい。

初回は顔合わせだからあれでいいのだ、オジは自分に言い聞かせる。

いざ再戦、オジは連絡を取るがムスメは生理だという。

オジは内心強く落胆するが、表面上はさも当然のように話題を食事に切り替える。

ムスメに何を食べたいか聞いてから日程を決める。

ちょっと高級な焼肉屋を予約した。

不発弾を残したままではあるがオジは大人としての余裕を見せた。


当日。

ムスメはちょっと高級な肉を喜んでいた。

飲みながらいろいろ語る。


⁠アニメや漫画は結構見るらしい。

音楽はボカロや歌い手系。

思ったよりオタク志向が強い。


SNSはInstagramを中心に複数のアカウントを持っているそうだ。

学校、夜職、趣味などそれぞれにコミュニティが違って相互に繋がりは持ちたくないとのこと。

オジと話している最中もスマホは片時も手放さない。

イマドキ。


パパ活は二年前からやっているとのこと。

中学二年生のときだ。

現在も顧客は複数名いるらしい。

なんでこんなことを中学生が、口から出そうになるが飲み込んだ。

顧客のひとりであるオジが問うには踏み込みすぎだと感じた。


少し年上の彼氏が居て半同棲状態のようだ。

実家とは折り合いが悪くあまり帰っていないとのこと。

イケメンだが金はムスメに集ることが多い彼氏らしい。

中学生時代からの付き合いのようで、この彼氏のためにパパ活などをしているように見えた。


他の同世代よりも異性絡みの経験は圧倒的に多いようだ。

セミプロとして二年間のキャリアがあることからも窺い知れる。

それもあってか同世代をリードするカタチで関係を持つことも楽しんでいるようだ。

童貞キラーを自称していた。


親子ほどに年の離れたオジが興味深げに根掘り葉掘り聞いてくるのは面白いらしい。

こうしてじっくり話を聞く大人は周囲に居ないと笑っていた。

日常での接点がないので何を話しても害がないところもポイントかもしれない。

余裕を見せたおかげでムスメの信頼を得られたのかもしれない。

オジは勝手にそう解釈した。


話す中でオジは“ムスメちゃん"から"ムスメぴ"と呼ぶことを許された。

ムスメには"オジさん"から"オジちゃん"と呼んで貰うことにした。

少し距離は縮まったように感じた。


とはいえ不発弾は残したままにできない。

次回の再戦を約束して別れるあたりは即物的なオジだった。

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