192話~メモの意味~
「ふむ……。
まず本題とは関係ないんだけど、人の踏み込んだ形跡のない地下3階でゾンビに遭遇したんだよね?」
綾菜は、優人たちの遺跡探索の話をひと通り聞き終えた後、リッシュが戦った“ゾンビ”という単語に反応した。
「ええ……。」
シリアが頷く。
「おかしいわね。必要のないところに、魔力を消費してまでゾンビを配置するなんて。」
綾菜の鋭い指摘に、一同がハッとする。
「えっ……でも本当にいたよ。」
リッシュが言う。
「うん。ゾンビが現れたのは本当でしょう。
それに、スイッチひとつで電気がついたことも考慮に入れると――恐らくそのゾンビは古代時代から存在してたものね。
電気もゾンビも、“魔力制御装置”みたいなもので管理されてたと考えるのが妥当。
つまり、地下3階にはその制御装置――魔収石が保管されている可能性が高いわ。」
綾菜が淡々と推測を述べると、アレスとシリアの表情が固まったのを、優人は見逃さなかった。
「魔収石って何?」
優人が尋ねる。
「魔収石は魔力を保存できる石。
大気中の魔力を吸収して、使っても使っても自然に回復させることができる貴重な鉱石なの。
似たようなものに“魔晶石”があるけど、あれは1度使ったらもう魔力が戻らないわ。」
説明を聞いて、優人は2人の反応の理由を悟る。
――つまり、彼らは“とんでもないお宝”を見逃したのだ。
「まぁ、目的はお宝探しじゃないから。
ちょっと気になっただけ、気にしないで。」
綾菜はそう言うと、冒険酒場のテーブルにあった無花果のパイを一口頬張り、
顎に手を当てて考え込んだ。
その視線の先には、優人たちが遺跡から持ち帰った“メモ”がある。
もう時間が無い。
イフリート様の怒りが落ちる前に、スタットの村長の娘を拐え。
私は念のため、代わりの生け贄を確保してくる。
――ジャック・オルソン
綾菜は眉をひそめ、しばし沈黙した。
全員が息を飲む。
やがて、綾菜が口を開いた。
「“代わりの生贄”と“時間が無い”という文面から見て、過去に誰かがイフリートと契約を交わしたことが分かるわね。
恐らく、“願いを叶えてもらう代わりに、数年後に魂を捧げる”という典型的な悪魔契約。」
「なるほど……。
つまり、その生贄が“スタットの村長の娘”というわけですね?
その娘の魂が奪いづらい状況だから、“代わりを確保する”という意味のメモですか。」
シリアが確認するように言う。
「ええ。どっちにしても迷惑な話よ。
スタットの村長の娘も、知らないうちに生贄にされてる。
代わりにされる方なんて、何の関係もないのに拐われるんだから。」
「相変わらず反吐が出るな……暗黒魔法使い絡みは。」
優人が低く呟いた。
「そうなると、俺たちは“2人の生贄候補”を守らなければならないな。」
アレスが重く言う。
スタットの村長の娘、そして“代わりの生贄”――2人の少女。
「スタットの娘なら行き先は分かるけど、“代わりの生贄”なんて見当もつかないだろ?」
リッシュが背伸びをしながら言う。
「遺跡でシリアが言ってた“10代前半の女の子”って条件だけじゃ、候補が多すぎる。
他に絞れる条件は無いのか?」
優人が言う。
綾菜は腕を組み、少し考えてから答えた。
「契約関係で優先されるのは、“暗黒魔法に何らかの関わりを持つ女の子”のケースが多いんだけど……。」
ガタンッ!!
綾菜の言葉に、優人が突然立ち上がった。
全員の視線が優人に集まる。
「絵里だ……!
フォーランドで、暗黒魔導士カルマに目の前で彼氏を殺されてる!!」
「ええっ!?」
シリアが思わず立ち上がる。
「絵里ちゃんが狙われる可能性が高いわね……。」
綾菜が険しい表情を浮かべた。
優人は無言で走り出し、出口へ向かう。
「おいっ! 優人!!
スタットの村長の娘はどうするんだ!?」
アレスが叫ぶ。
優人は身を翻し、走りながら叫んだ。
「アレスたちに任せる!! こっちが落ち着いたらすぐ援軍に行く!」
バタンッ!!
勢いよく扉を開け、優人は外へと飛び出していった。
「援軍って……あいつ、スタット村の場所知らないだろ……。」
アレスが扉を見つめながら呟く。
リッシュが椅子から飛び上がり、勢いよく言った。
「2手に分かれるなら、ジハドの信者がそれぞれにいた方がいい。
バランスを考えて、俺とアレスがスタット村へ行こう。
綾菜、シリア、ミルは優人を追ってくれ。」
「でも……2人で大丈夫?」
綾菜が心配そうに尋ねる。
「問題ない。俺とアレスがいれば、前衛・風水魔法・神聖魔法は揃ってる。
戦力的にやや劣るかもしれないけど、そっちは“絵里が違った場合”を考えると人数を置いた方がいいだろ?」
「……なるほど。分かったわ。無理はしないでね。
こっちのケリをつけたら、ゆぅ君とすぐに向かうから。」
綾菜が言うと、リッシュとアレスは頷き合い、椅子を蹴るようにして立ち上がり――
そのままスタット村へと向けて出発した。
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