◎チャリんこ◎
石鎚榛名三里の山
【第1話】出会い
長崎街道が通る本州と九州の境目にある北九州市は坂が多く、急で、楽しい。夏が始まろうかとする6月の終わりごろ、制服の裾をめくりツインテールに綺麗な黒髪をして肌は色白な女子高生が急な坂道を歩いて登っていた彼女の名前はしの、することと言えば歩くこと旅をすることが好き。小さな段差に生える雑草に親近感を抱きながら日々旅をしている。でも今日は風邪を引いてしまって保健室で横になっていて暇で仕方がない、ふとスマホのフリマアプリを見る。偶に掘り出し物があるから、、今日は旅に使えそうなものを見てたら、中古の二万円のチャリを見つけた、そのチャリはタイヤが太くてまるでマウンテンバイクとクロスバイクの子どもみたいな見た目をしていて、色は白くアクセントに鮮やかな緑色が特徴的だった、出品者の女性は飯塚に住んでいるというので持ってきてもらった。即購入するのはお財布が許さないから、現状確認をさせてもらう事になった、その自転車はこじんまりとした軽自動車の荷台から降りてきた、持ってきてくれた人は優しいぱっちり二重をしたシュッとした顔の女性だった。身長はギリギリ自転車に乗れるであろうかと言うほどだった。「君がしのちゃん?」そう言って笑顔で手を振ってくれた。私は「はい、とても気になったので購入する方向で現品確認をさせて貰ってもいいですか?」彼女は笑顔でうなづいてくれた。チャリを見てる間その女性の方が昔話をしてくれた。「これ、私が初めて買ったバイクなの。でももう就職で鹿児島に行くことになっちゃったから泣く泣く、、ね?」私はそれを聞いて余計このチャリが魅力的に見えてきた。少しだけ傷があるけど全然許せる程度だった。「これ買わせてください!」周りの人が驚いて振り向いてしまうぐらいの声量でつい声が出てしまった。しかしあの女性は少しの沈黙の後にパッと笑顔になって「大切にしてあげてね!」と答えてくれた。私の初めての自転車はこの女性の初めての自転車になって無駄にドラマチックになってしまった。お別れの挨拶も程々にし私は帰路に着いた。あえて待ち合わせ場所を自宅からあえて遠くして、プチツーリングを楽しんだ。走り出すとアスファルトのゴツゴツ感がタイヤ越しに手とお尻に伝わってきて、何故かそれが心地よかった。そして何より自転車専用道を通って車と同じ信号を見て、車と同じ所を走っていることに何故か優越感に浸ることが出来た。紫川を超えてリヴァーウォークが見えてきた。リヴァーウォークと小倉城の間にある歩行者専用の橋を渡り、お堀に沿って北九州工業大学のキャンパスのある道に出て、リヴァーウォークがある旧電車道を、横断し真っ直ぐ行き踏切を渡ってすぐが私の家で、案外すぐ着いてしまった。そうして、ふと振り返ると、チャリのシルエットが夕暮れに映えていた。明日も走りたいなぁ、って小さな心のエンジンが回り出していた。 続く
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