第20話 子どもが欲しかった。でも夫がつらかった。
30歳。私は子どもが欲しかった。
でも、夫がつらかった。
会社よりもしんどかったのは、実のところ――夫だった。
一言でいえば、「私を都合のいい奴隷だと思ってる人間」。
家事も、気遣いも、感情のコントロールも、
ぜんぶ私。
それが“当たり前”だと信じて疑わない人だった。
言われたことは何でもした。
ご機嫌取り? 土下座? あれはもう呼吸みたいなもの。
「何でもした」に含めるのも失礼なくらいの日常業務。
でも、どうしても子どもが欲しかった私は、
何度もモラ夫に泣きついた。
「お願いだから、子どもが欲しい」って。
……いや、よく考えれば、
「子どもができなかったら離婚したい」くらいは言えたはずなんだよな。
でも言えなかった。私はそこまで強くなかった。
この頃の頭の中は壊れたレコード。
「夫とは無理。
でも30歳。子ども欲しい。
一人は辛い。
じゃあ子どもと二人で――」
ぐるぐる、ぐるぐる。
抜け出せない、永久ループ。
今思えば、見通しはザルだった。
子どもの人生? ちゃんと考えてなかった。
片親で育つ大変さ? 想像できてなかった。
というか、自分のことすらろくに考えられてなかった。
今なら、冷静にこう言える。
「子どもは作らず、夫から逃げる。一人で生きる」
それが正解だった。たぶん。
いや、間違いなく。
でも当時の私は、選べなかった。
知識とか理性の問題じゃなく、心の穴の問題。
私はずっと寂しかった。
「家族」という形に飢えていた。
子どもが、欲しかった。
そしてバカみたいに信じていた。
「子どもができたら、夫も少しは変わるかもしれない」
――ほんのわずかな希望にすがって。
で、結果?
夫は当然、変わらなかった。
むしろモラハラは加速した。
エンジン全開でこっちに突っ込んできた。
……それでも私は、娘を授かってよかったと思っている。
なんだかんだで路頭に迷わず、
今は娘と穏やかに暮らしている。
娘のいない人生なんて、考えられない。
ただ、これは「結果オーライ」ってやつ。
綱渡りのギャンブル。
たまたま勝っただけ。
運が良かっただけ。
私を救ってくれたのは、娘。
そしてその救いすら「偶然の産物」。
……本当に笑えないんだけど、
こうして文章にすると、笑うしかない。
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