第6話
雷がすぐ近くに落ちた。
撃たれた地が震えると共に、
闇に潜んでいた敵が肉食獣のような早さで飛びかかって来る。
足を一歩後ろに引き、前から飛びかかって来た敵を迎え撃とうとした体勢は、頭上から急襲して来たものには無防備だった。
――本来ならば。
ドン!
木の上から落ちてきた敵は、望み通り獲物の脳天を一撃で潰すことは無く、そのまま地面に手甲に仕込んだ剣を突き立てた。
自らが優れている者は、ほとんどの人間の優位に立つから、
時折忘れるのだ。
……上には上がいるということを。
それは敵にとって、相手を見失うほどの凄まじい回避反応だった。
彼らは確実に仕留めたと思っていたので、まずそれで狼狽えた。
そのやり方で殺せない敵が、今までいなかったからである。
一瞬身動きが出来なくなったそこに、横に飛びすさった勢いを、地面を掻く仕草だけで止めて、地を一つ強く打ち、真逆に方向転換した。呼吸も入れず剣を二度、振るう。
一度目は背から胸を突くひとつき。
二度目はそのまま剣を跳ね上げて、振り下ろす仕草で、側にいたもう一人の敵の腕を切断する。
鮮血が散った。
宙に舞った腕を、すかさず掴み、背後から襲い掛かって来た三人目に投げつけた。
たじろいだ敵はその一瞬の隙に喉元に深く剣を突き刺され絶命する。
鮮血と、激しい雨が降る中を、
浴びながら飛びかかってくる相手は、黄巌に傷を付けることは出来なかった。
闇と、赤い血に視界を封じられる中でも、寸前の狂いも無く、彼の左から一閃させた短刀が敵の眉間を矢のように貫いたのだ。
飛びかかった体勢のまま宙で絶命し、
ただの死体になった身体が土の上に叩きつけられるように落ちる。
水飛沫が上がった。
うめき声が聞こえる。
片腕を失った男が、死に絶えた味方の死体、その下から這い出してくる。
尋問し、何者か聞く。
しかし聞いて何になるのだと思った。
この者達がどこかの間者だと分かれば、
憎しみが湧くだけだ。
この者達を送り込んだ者、育てた者、命令を出した者を憎んで、殺したくなる。
彼らは徒党を組んでいた。まだ必ず仲間がいる。
つまり、言う必要は無い。
この二人が戻らないことでそれは伝わる。
涼州の人間の怒りを買い、復讐を受けたのだとその事実さえ伝わればいいのだ。
涼州の人間にこれ以上手を出せば、こうなるのだと。
だから今、この剣は容赦などしなくていい。
仕掛けたきたのは敵の方だ。
美しい涼州、
そこに住んでいた人々の美しい暮らしを、勝手に破壊した。
「うあああああぁ――――ッッ!」
二つに分かれた人間の身体が、地に落ちて何も言わなくなった。
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