第二章

第16話




第16話「笑顔の裏で」


 放課後の教室。

 窓から差し込む夕陽が、夏希の髪をオレンジ色に染めていた。


「じゃ、明日の本番、よろしくね!」

 部活の先輩が声をかけると、夏希はいつものアイドルスマイルで返す。

 けれど、その笑顔はどこか固かった。


 俺は机に肘をつきながら、その横顔をじっと見ていた。

 最近の夏希、少し変だ。笑っていても、視線がすぐにどこか遠くへいく。


「おーい、聞いてる?」

「え? ああ、うん」


 返事はしたけど、声のトーンが低い。


 放課後の教室を出て、廊下を歩くときも、彼女はスマホを握ったまま何度も画面を見ては消していた。


「なあ、そのスマホ……誰から?」

「……ただの事務連絡」


 短くそう言って、話を切るように歩幅を速める。

 その背中を追いかけながら、胸の奥がざわついた。


 校門前で別れ際、夏希は振り返って微笑んだ。

「じゃ、また明日」


 夕暮れの中、その笑顔は綺麗だったけど――ほんの少し、寂しそうだった。


 俺は立ち尽くしながら、心の中で思った。

 ――あいつ、何を抱えてるんだ。



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