第12話

第12話「芸能人、未来の選択」



入学式から半年が過ぎ、桜の花びらが舞う登校路――一ノ瀬遥と朝比奈すみれは、いつもの並木道を歩いていた。


「ねぇ、はる…昨日、YouTubeで私たちの映像祭作品がバズったみたい」

すーちゃんがスマホを覗き込みながら言う。


画面には、見覚えのある「隠し場所の世界」のハイライト映像が再生され、コメント欄には


「美しい二人のクリエイションに涙が止まらない」

「BGMと映像が心に刺さる…!」

など絶賛の声があふれている。


「再生回数…200万超えてる!」

「ありがとう、すーちゃんの才能だよ」


だがすーちゃんの表情は晴れない。


「でも、コメントに“芸能界復帰を”って意見も増えてて…」



◆追跡記者の正体


その日の放課後、また例の記者が校門前に立っていた。だが今回は、名刺を差し出す際の一瞬、柔らかな笑顔が見えた。


「朝比奈さん、一度だけで構いません。今度、ゆっくりお話を…」


すーちゃんが固まると、一ノ瀬が記者に詰め寄った。


「しつこいですよ! 他の生徒の迷惑にもなるし!」


「すみません…僕は地元の出身で、すーちゃんのファンなんです。悪意はありません」


名刺の肩書は「地元紙・文化部 山崎涼子」。以前の記者より、柔らかく落ち着いた雰囲気だ。


「ファン…?」

「はい。高校時代から応援していて、メディアの一方的な報道には心を痛めていました。今日は『学校を守りたい』一心で来たんです」


すーちゃんは一瞬、目を潤ませた。


「ありがとう…でも、まだ答えが…」



◆選択の岐路


翌日、放課後の図書室。すーちゃんは進路パンフレットを前に、心ここにあらずといった表情でページをめくっている。


「私…映像制作の大学もいいし、演技科も惹かれる。もちろん東京の芸能事務所復帰も考えた。でも、本当に大事なのは…」


一ノ瀬はそっと横に座り、お守りを取り出した。


「これ、まだ持ってる?」

「うん…遥がくれたお守り、すごく心強かった」


「はると一緒なら、どんな選択でも大丈夫って言ったよな?」


すーちゃんは小さく頷く。


「…うん。だから、決めた。まずは地元の美大に進学して、映像と演劇、両方学ぶ。それから、自分の作品で自分の言葉を届けたい」


「それが…本当のすーちゃんの道だと思う」



◆新たなチャンス


ちょうどそのとき、山崎記者が図書室に現れた。ノートPCを広げ、画面を二人に見せる。


「すみません。実は記事に続きがありまして、地元の映像祭や民放の特番制作チームが、『隠し場所の世界』を題材にしたドキュメンタリーを検討中なんです」


「ドキュメンタリー…?」

「はい。アルペジオ以来の青春の軌跡を追う特番で、地元の高校生としてのすーちゃん、そして遥くんとの出会いを含めて構成したいとのことです」


すーちゃんの目が一瞬、大きく見開かれた。


「…私たちの物語を、映像作品として、また別の形で伝えられるんだ」



◆ふたりの約束


帰り道、夕暮れの桜並木。二人は互いに手を取り、空を見上げた。


「進路も決めたし、新しいチャレンジも来た」

「未来に向かって、一歩を踏み出すときだな」


すーちゃんは桜の花びらをひとつ拾い、胸元のお守りにそっと触れた。


「全力で、もう二度と“隠し場所”に何も隠さないで生きる」


一ノ瀬は深く頷き、そっとすーちゃんを抱きしめた。


「一緒に見つけた“本当の私”を、これからも守りたい」


夜空に淡い月明かりが差し込む中、二人の影はゆらゆらと重なり合い、新たな未来へと続く道を照らしていた。



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