~校則違反~

校則は厳しい。

でも、彼女と歩く廊下は、少しだけ自由だった。

*


授業が終わり、ざわめきの残る廊下を二人で歩く。

窓から差し込む午後の光が、沙羅の髪を淡く透かしていた。


「知ってる? ユウキくん。この学校って、けっこう校則厳しいことで有名なんだよ!」

ふいに振り返り、からかうような笑みを浮かべる。


「そうらしいね。僕らも気をつけないとね」


「たとえばタトゥーとか、ぜったいダメなんだって!」

「いや、それ……許される学校ある?」


「あとね、ピアスもダメ。校則に“華美な装飾”は禁止って」

沙羅は耳たぶを軽く触れ、少しだけ息を吐いた。


「まあ、ピアスはちょっと痛いんだけどさ」

「……今のままでも、十分だよ」


自分でも意外なほど素直な言葉が出て、胸が少し熱くなる。

沙羅は一瞬、足を止めて振り返った。


「ユウキくんはいろんな私を見てみたいと思わない?」


唐突な問いに、思考が一瞬止まる。

(“いろんな私”って、どういう意味……?)


そんな僕の顔を見て、沙羅は目を細め、くすっと笑った。

「え、そ、それは……まあ、見てみたい……かも」

自覚する前に、本音が口からこぼれる。


「ふふっ、正直でよろしい!」


沙羅は満足げに笑い、再び歩き出す。

「じゃあ、今度ユウキくん好みの服、着てあげよっか? どんなのが好き?」

「うーん……可愛い感じの……ワンピースとか?」

「やっぱり〜! ユウキくん、そういうの好きそうだと思った!」


くるりと踵を返し、わざと軽やかな足取りを見せる。

「今度、お気に入りのやつ着てきてあげる。特別なファンサービスなんだから感謝しなさいっ!」


思わず笑みがこぼれ、その背中を追う。


ふと、沙羅が小声で言った。

「そういうわけで、今度ユウキくんのピアスの穴あけてあげるね。ちょっとチクっとするだけだから!」

「なにがそういうわけなの!? それなら僕が沙羅ちゃんにしてあげるよ」

「とうとう私、ユウキくんに傷物にされちゃうんだ……」

「人聞きの悪いこと言わないで!」


そんなやりとりをしながら、二人の歩幅は自然と揃っていく。


「ちょっと寄り道してこうよ。見せたいものがあるんだ」

「どこに寄るの?」

沙羅は唇の端を上げて、いたずらっぽく答えた。

「それはもちろん……シーシャバー!」

「今までの会話はなんだったの!?」


思わずため息をつきながらも、ユウキはその背中を追い続けた。

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