第19話 再会の予感

 リックが消えて数日後──。


 ラグナが鍛錬の手を緩めることはなかった。打ち込むようになっていた。

「リックの分まで強くなるって決めたんだ……泣いてばっかじゃいられねえだろ。」


 そんな彼女の隣には、メアリーの姿もあった。彼女もまた、剣技を磨き続けていた。

「彼の技には相手を尊重する意志があった。そして、無駄がなくて美しかったわ。リックが教えてくれたこと、全部……私たちが受け継がないと」


 リックがいた時間は短かった。しかし、彼が残していったものは確かに彼女たちの心に根を張っていた。


 その一方で、ロイドは闘技場の片隅で静かに祈りを捧げていた。かつて、誤解と怒りでリックに刃を向けた自分。だが、今は心から感謝していた。

「……キミは、姉さんの誇りを守ってくれた。今度は僕が……この場所で、誰かを守れるように強くなる。」


 そして──それから、数ヶ月が経過した。


 季節は初夏を迎え、街には再び活気が戻っていた。闘技場では年に一度の“剣聖祭”が行われるということで、準備が進んでいた。


 ラグナとメアリーもその記念大会で戦うことを決めていた。リックがいなくなったあの日以来、ふたりはいつか再び戦えることを信じて、それぞれの道を極めてきた。


「見てて、リック……あなたの教えを胸に、私たちが今どれだけ成長したか、きっと届くはず。」


 だが、その夜──


 眠りについたメアリーの夢にリックが現れた。


 ──静かな湖畔。月明かりが水面を照らす幻想的な光景の中、リックは静かに立っていた。


「リック……? これは……夢?」


 リックは笑った。


「うん、たぶん夢だよ。けど、メアリーさん。聞いてほしいことがあるんだ。」


 彼は少し申し訳なさそうな顔で言った。


「元の世界に帰ってしばらくして、僕……事故に遭ったんだ。多分、もうあっちでは目覚めない。でも……不思議と怖くなかった。だって、あの世界よりも、ここでの時間の方が僕にとってはずっと……生きてるって思える時間だったから……」


 メアリーは驚きと戸惑いの表情を浮かべる。

「リック、それって……」


「そう。僕、もうすぐ……戻ると思う。あの時とは違って、今度は、“ここに生きるために”来るんだ。」


「本当に……戻ってくるの?」


 リックは静かに頷いた。

「うん。でも、メアリーさんたちが強くなってたら、置いて行かれるかもなぁ。だから僕も、ちゃんと鍛え直すよ。そっちでまた一緒に戦えるように。」


 彼の姿が淡く揺れ始める。夢の終わりが近い。


 メアリーは泣きそうな顔をこらえて、強く言った。


「待ってるわ。絶対に会えるって信じてる……」


 リックは、柔らかな笑顔で答えた。

「うん……約束だよ。」


 次の瞬間、夢の世界がふわりと消えた。


 翌朝、メアリーは目を覚ますと同時に立ち上がった。


「……ラグナ!」


「んあ?何だよ朝っぱらから……って、お前、顔赤くね?」


「リックが……戻ってくる。そう、夢で言ってたの。私、彼が本気だって感じたの。」


 ラグナはしばらくポカンとしていたが、やがてニッと笑った。


「そっか……あいつ、また帰ってくるのか。なら……アタシらがボケっとしてたらカッコつかねえな!」


「ええ……彼に、“迎える準備ができてる”って、胸を張って言えるようにしないと!」


 そして迎えた、決勝戦の朝。


 フィールドに立つラグナとメアリーは、戦う直前にそっと空を見上げた。風が吹いた。その瞬間、彼女たちは確信した。

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