第17話 影との対峙
ロイドとの因縁に終止符を打ったその直後、リックは気持ちを切り替え、すぐに訓練場へと足を運んだ。なぜなら、次に待ち受けているのは決勝戦──そして、相手はあのラグナ。力の象徴のような存在であり、リックが闘技場での成長を証明するにふさわしい最高の相手だった。
「絶対に……勝ってみせる。」
そう自分に言い聞かせながら、リックは長棍を振るい続けた。イメージトレーニングも繰り返し、ラグナの強烈な攻撃にどう対応するか、どこに活路を見出すか──考えられるすべてを想定して動き続けた。
だが、集中しすぎたせいで時間の感覚が曖昧になっていた。
気づいたときには、太陽の位置がかなり傾いていた。
「まさか……試合、始まってる!?」
リックは訓練を中断し、全力で闘技場へと駆け出した。走る最中、風を切るような歓声が聞こえてくる。何かがすでに始まっていることは間違いなかった。
だが、観客の叫びはどこか混乱していた。まるで何かがおかしい、と言わんばかりに──。
息を切らせながら闘技場へ辿り着いたリックの目に飛び込んできたのは、ラグナと対峙する一人の男。そして、その男の姿は……まるで鏡を見ているかのように、リックと瓜二つだった。
「……な、なんだ……あれは……?」
呆然としたまま立ち尽くしていると、観客席から声が飛んだ。
「リック!?どうしてここに……じゃあ、今戦ってるのは誰なの!?」
メアリーの困惑した声が会場に響く。リックはハッと我に返り、すぐさまリングへ駆け寄った。
その瞬間、戦いの舞台ではリックにそっくりの男がラグナに向かって、鋭く飛びかかっていた。ラグナは間一髪でそれを避けたものの、表情には焦りが滲んでいた。リックは叫んだ。
「ラグナさん!そいつは偽物だ!ぼくはここにいる!」
ラグナは一瞬、動きを止めてリックの声のする方を見やった。そして、目の前の“リック”を睨みつけた。
「……てめぇ、何者だ?」
瓜二つの男は不敵な笑みを浮かべ、冷たい声で答えた。
「僕もリックだよ。もっとも──そこの本物が心の中に押し込めてる“弱さ”と“不安”が形になったものだけどね。」
「……僕の……弱さ?」
自分の影のような存在に、リックは戸惑いと恐れを感じた。しかし、恐れている暇はなかった。幻影のリックは冷酷な目でリックを見据えた。
「お前が本当に強くなりたいなら、自分自身と向き合え。さあ──来い!」
ラグナはすぐに構えを取り直し、リックに向かって叫んだ。
「リック!こいつを一緒にぶっ飛ばそうぜ!これはお前が乗り越えるべき相手だ!」
リックも覚悟を決め、長棍を手に構えた。そして、ラグナと並び立つ。
「ありがとう、ラグナさんがいてくれるなら、僕は……絶対に負けない!」
二人は見事な連携を見せながら、幻影のリックに攻撃を仕掛けた。幻影はリックの戦い方を完全にトレースして、なおかつ動きに一切の無駄がなかった。しかし、だからこそ──本物のリックは、自分のクセも、弱点も熟知していた。
「ここだ!」
リックは幻影の動きのわずかなズレを見逃さず、長棍を勢いよく突き出した。その一撃は、幻影の胸元を貫いた。
幻影は一瞬、驚いたような表情を浮かべ──その顔が安堵に変わり、やがて黒い霧となって空中に消えていった。
リングに静寂が戻った。リックは肩で息をしながら、隣に立つラグナに振り向いた。
「ありがとう。ラグナさんがいなければ、僕は自分に勝てなかった……。」
ラグナはにやりと笑い、力強くリックの肩を叩いた。
「バカ野郎、礼なんかいらねぇよ。それより……お前、マジで強くなったな。」
そこへ、メアリーも駆け寄ってきた。リックを見るその瞳は、温かく揺れていた。
「リック……本当に、おめでとう。あなたはもう、どんな試練にも負けない強さを手に入れたわ。」
リックは彼女の言葉に微笑みながら、拳を強く握りしめた。
──こうしてリックは、己の内に巣食っていた弱さと不安を乗り越えた。仲間と共に戦い、支え合いながら成長してきた彼は、ついに“真の自分”として、闘技場に立つ資格を手に入れたのだった。
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