G03「テントが大きい」R05

一刻も早くやりたくても、先に片付けないと落ち着かない性格は損かな?


自分の部屋に戻って制服をクローゼットにしまう。

制服に汗のニオイがついてないかチェックしたのは、剣道でついた癖。

通学用のバッグを机に置いて、明日の予定を確認して教科書をバッグに入れる。

一通り準備できたので、ルームウェアからパジャマに着替える。

もうそれほど寒くはないけど、少しモコモコした桃色の生地が肌に触れると気持ちイイ。

髪も乾かしたから、シャンプーの少し甘い香りがする。


そんな手順を儀式のようにこなしながらも、この「我慢する私」が心地よいのが私の性格。


ベッドにうつ伏せに寝転がって枕を胸の下に入れて、マックを開く。

ブラウザを起動してブックマークを開くと、スッとジオゲの画面が表示された。

嬉しさのあまりバタ足して声を上げてしまった。


「きゃー! やったー!」


「あねきー、うるさーい。」


隣の部屋から悠人が苦情をよこした。

しまった、うるさかったか。


「ごめーん。お姉ちゃんでしょ!」


少しボリュームを抑えて、壁越しに謝りつつ弟を教育する。

あんなに素直で可愛かったのに、姉貴とか言い出すのは良くない。


さすがにこの姿勢ではプレイしづらいことに気づいて、机に移動した。


「やっぱりマウスの方がやりやすいかも。」


つい、独り言が口をついて出る。

パッドでも一応操作はできるけど、学校のパソコンの方がプレイしやすかった。

マウスっていくらぐらいするんだろ?と思い、検索してみる。


「ピンキリなんだな。」


お年玉は手を付けてないし、お小遣いも余らせて貯金してるけど。

さすがにゲーム用と書かれてる高級品は手が出せそうにない。


「でも、安いの買ってプレイしにくいのも困るな……。」


そんな後悔する未来がふっと頭に浮かんだ。

ひとまず、先輩たちに相談した方が良さそう。


初めて、自分の部屋でジオゲをプレイする。

次から次へとみたことがない景色に混じって、たまに日本の風景が出てくる。

看板とか無くても、何となく日本って分かるかも。


幼い頃から見て育った景色は、一言で言えば「見覚えがある」感じがする。


「この感覚を増やさないといけないんだろうな……。」


寝るまで2時間ほど、ブツブツとつぶやきなら景色を見続けた。


その夜は幸せな気分で、ベッドに入った。


包み込むようなパジャマが肌に温かく触れる。

窓の外の街灯のオレンジが、カーテンの隙間から細く差し込んでいる。

目を閉じると、まよちゃんの弾む声、愛乃先輩のやわらかな笑い、瑞希先輩の澄んだトーンが、順番に耳の奥に戻ってきた。

その声たちが交わる場所――今日、私が足を踏み入れた部室を思い浮かべる。


私の地図は、まだ真っ白だ。でも、そこにはもう小さな色点がひとつ、ふたつ。

明日には、また別の色を置けるかもしれない。

そんなことを考えているうちに、頬がふっと緩み、意識は静かに沈んでいった。

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