G06「車が追いかけてくる」R10
私、天国を信じます。今、目の前にあるので。
梨沙子先生が「すぐよ」と言ったとおり、断層公園から次の目的地は3分だった。
車を降りると、『酪農王国』と書かれた看板が掲げられた建物があった。
「スイスなら2階の出窓に花がありますよね?」
「大体、庭に国旗があるしな。」
「でも〜、スペルがドイツ語じゃないのよね〜」
「壁が黒いのはドイツっすね。スウェーデンとかでも見たっす。」
「あなたたち、完全にジオゲ中毒ね……。」
先生が呆れた顔で言った。
入り口には『しぼりたての生乳を使った自慢のソフトクリーム』というノボリが立っていた。
それは天国で売られてるやつでは?
入ると同じ生乳から作られたチーズにバター、ラスクやバームクーヘンが所狭しと並ぶ。
それも天国で売られてるやつです、間違いない。
「先生。お腹が空きました!」
私は元気よく挙手した。
「まずいわ、みんな。千登世ちゃんがこんなこと言ってるわよ。」
「早くランチにした方がいいっす!」
売店を抜けた先にレストランがあったので、そこでランチをとることになった。
まず牛ヒレ肉のステーキ丼と飲むヨーグルト。
さらにモツァレラスパゲティに自家製パンで下地を作ります。
そこに『しぼりたての生乳を使った自慢のソフトクリーム』を追加すると、幸せな私が完成しました。
「ね、ズルいっすよね?」
まよちゃんがほっぺを膨らませている。
「千登世ちゃん、確かにズルいわね。」
梨沙子先生も怒った顔だ。
「ちょっと、本当にどこに入ってるのかしらね?」
「きゃー、先生、ちょ、ダメです、お腹触らないで!」
瑞希先輩が首を傾げてる。
「ひょっとして基礎代謝がスゴイのかな?」
「千登世ちゃん、腹筋割れてるわよね、これ。」
ぎゃー、なでなでしながら、恥ずかしいことバラさないでー。
「だ、だって、小さい頃からずっと剣道やってたんですよ。アハハハハハ!」
いきなりくすぐるの、無しですよ!
「そんなに練習してたの〜?」
「うちの道場、かなり厳しくて。腕立てに腹筋、背筋、もちろん素振りもガッチリやらされたから。」
「県でベスト8って言ってたっすよ。」
「「「え⁉」」」
瑞希先輩が驚いた顔で聞いてくる。
「特別強化選手とかそういうレベルじゃないのか?」
「えーと、そういう話もあったんですけど……。」
「強豪校からお誘いは?」
「それもありました。」
「何か理由があったのかしら〜?」
「強豪校は中部か西部なんですよ。遠くて。」
「それだけっすか?」
「あとは、ベスト4がかかった試合で、迷っちゃったんだよね。攻めるかどうか。」
「メンタルの問題ってことっすか?」
「そうかも。強い人って自分を信じ切れるんだ。私はそれが無いから、これ以上は強くなれないなって。」
先生が真面目な顔に戻ってる。
「千登世ちゃん、すごかったのね。」
「え? すごくはないですよ。負けちゃったわけだし。」
「ううん。ベスト8まで勝ったんでしょ?」
先生の言葉は体に電気が走るようなショックだった。
そっか、ベスト8まで私は勝ったのか……。
瑞希先輩が微笑みながら言う。
「千登世さんは観察力も記憶力も、私が羨むぐらい高いんだ。信じ切れるまで練習したら、きっとジオゲで世界を狙えるよ。」
「そ、そんなことないです! だって先輩、すごいじゃないですか⁉」
「それは長くやってるからだよ。」
先輩がウインクした。
格好良すぎて、蕩けそう。
「真宵はー?」
まよちゃんが手を挙げた。
愛乃先輩がまよちゃんの方に体を向ける。
「真宵ちゃんは、直感がすごいわよ〜。一度見た風景覚えてるでしょ〜?」
「そうっす。何で分かるっすか?」
「プレイしてる時に、真宵ちゃんは"Guess"した理由を独り言で言わないのよ〜。鼻歌交じりで、パッと見て当ててるわ〜。」
「えっと、そうっすね。」
そう言って、紙ナプキンにまよちゃんは鉛筆で何かを描き始めた。
「出来たっす!」
そこにあったのは、さっきお鉢めぐりで見た島々が連なる景色だ。
「すごっ!」
今度は私が驚く番だった。
「え、まよちゃん、記憶だけで描けるの⁉」
「んー、スマホで写真を撮るじゃないっすか。頭の中はあんな感じっす。」
瑞希先輩も心底驚いた顔をしてる。
「試すようで悪いんだが、部室で初日に見たデンマークの風景は?」
「ちょっと待ってください。」
フンフン鼻歌交じりで鉛筆を走らせるまよちゃん。
「これっすね。」
まよちゃんが描いた絵には色こそ無いけど、確かにデンマークの景色だ。
隣にスマホを置いて描いたとしても、たぶん私には不可能だと思う。
正直、羨ましい能力だ。
みんなが静かになったところで、まよちゃんは不思議そうな顔をしてる。
「普通っすよね?」
「「「「普通じゃなーい!」」」」
全員で総ツッコミ。
「私も絵は得意な方だけど、真宵ちゃんのはレベルが……。」
先生が頭を抱えてる。
「梨沙子先輩! 今年のじおげ部は最強ですよ⁉」
瑞希先輩は興奮気味だ。
「真宵ちゃん、本当に天才じゃない!」
愛乃先輩は目がキラキラしてる。
「真宵、天才だっていつも言ってるっす!」
渾身のドヤ顔だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます