第2話 黒隼VS水牛


「行き…ます」


 ヴァラックの戦闘の申し込みを受けた水牛獣人バッファローの女は、青龍刀を持ったまま右腕を回し、首に巻くように構えた。


 ——ヤツの明らかに狙っている「箇所」への攻撃に眉を顰める。

 ———。

「—構わん(…首元を狙った右から左に横一閃)」


「ブ…ゥアアアアアアアアア!!」


 構えたまま、大きく咆哮しながら向かってくる水牛獣人に、ヴァラックは首を鳴らして…脱力。


 ポケットに両手を突っ込み、姿勢を前傾に…頭を投げ出すように前のめりになった。


ガギョ!! ギガガガガ…


「なっ…」


 水牛獣人の剣は…私のトレードマーク的なマスクに止められたのだ、押し切ろうにも自身の腕力では、この私の首を動かすことは不可能だと、バックジャンプで距離をとった。


「硬い…(少なくともアダマンタイト・・・・・・・並か…)」


 青龍刀から伝わってきた衝撃に、手が震えるのを感じながら、異常なマスクの硬さに驚愕していた。


 …よりもの方がより強く衝撃が与えられるのは常識だ、しかし点で面を破れなかった以上、私の剣とあの人のマスクとでは、それだけかなりの硬度差が…あるのだろう。


「だろう、いつから着けてたのか自分でも知らん・・・・・・・。」


「なるほど…ファンとして一つ知識が…」


 ヴァラックの解説を聴いて、汗を流しながらも返事を返した、だがその僅かな油断の隙に…ヴァラックは眼前に迫った。


「ッ!?脚ッ!」




「踏み潰れろーッ!」


 "ドウッ"…と肉と肉が衝突する音と共に、水牛獣人の女は背中に蹴りをモロに喰らってしまった…だが…。


「…?(コイツ…背中・・の肉が厚い…)」

「ぐがが…!っどうですか耐えました…よッ!」


ガシッ!!


 …しかしヴァラックによる、その踏み潰し攻撃は見事に防がれてしまい、青龍刀を持っていない方の左手で足首を掴まれた。


 …しゅ、種族的な特性か…っ、ほう、掴むか、この私の…隼の爪を…!だが!


「掴んだとてぃッ!」


ググググ…!!


「う…うぅ…(こ、このまま潰す気か!?)」


 だが流石のヴァラック…2度目はない(※猫獣人の時)と、掴まれたまま脚をグイグイと圧した。


 あまりのパワーに堪らず、掴んでいた足首を離した…それと同時に青龍刀をふりかざす…も


「雑なんだよ」


グイーー…ッ!


 手の甲で軽く押して剣撃を逃れ…、思わずにはいられないな…なんと、言うか、期待はずれというか…。


 ヴァラックは少しつまらなそう・・・・・・に地面を…



 蹴り上げた。


「はーッ…」




 その瞬間、水牛獣人は地面に・・・顔を着けていた・・・・・・・


「ぶッッ…」


「なあ!?」

「地面が抉れた・・・!?」

「姉さん!!」


 ヴァラックが地面に靴の爪先を勢い差し込む事で、地面を抉り取ったのだ…、それを勢いよく水牛獣人に蹴り飛ばしただけの話である。


 顔面に衝突した飛来物に流石の獣人も、大きく目を眩ませる。


「あぐぅぅぅ…」

「おいおいおいおいおい、まだまだここらからだぞ」


ガシィッ!!


「!姉さん避けて!!」


 チンピラ3人組の1人、蜥蜴亜人リザードの女が叫ぶ…だがもう遅い。



 既にヴァラックが水牛獣人の腰に腕をまわしてクラッチ※拘束し終えた後だった。




「高い高いは好きか!?」




 ヴァラックは水牛獣人を抱えたまま大きく真上に跳び、空中で体勢を変えた。


 ジャンプに合わせてクラッチは既に解き、変わるようにヴァラックは両腕を両脚に絡めて…無理矢理体を縮めさせて、水牛獣人のを掴んだ。




「私は嫌いだがな!」


ヒュ…ッ!


 腕二本で完全拘束された水牛獣人は未だ意識を戻さず、重力に逆らうことなく…頭部を地面に強打した。



「……ッ〜ガハッ!?」


ズゥ…ゥウン…


「あえて名付けるなら…そうだな『確実な投げ技クリティカ・ダンクショット』…まんま過ぎるかな…」


「あが…ぁ…」


 「どう?」と言いたげに振り返るヴァラックは、地面に転がる水牛獣人を見下ろした。


 仰向け大の字で倒れる水牛獣人は、明らかにノックアウトされて戦闘の再起は不可能にしか見えない。


「…(…期待…し過ぎたか)」

「おいそこの取り巻き三人衆!」

「ッ…な…なんでしょうか…」

 「もう勝負…いや小競り合い・・・・・は済んだ、コイツを…」


 ——刹那、「暑さ」で汗をかいた私を襲った不快感・・・…私は確かに、自身の胸中に深々とツノ・・が刺さる…と幻視した。

 

オンオンオンォン…


 大きく振りかぶりながらの回転蹴りを放つも、震えた金属音と共にその蹴りは防がれる。


「…剣の横っ腹で…、防いだとて…、ん?」

「…ぃ…ません…、もう…」


休憩・・は済みま…した…!」

「…、…バ…バハハ…ッ・・・・・!」


 青龍刀の刀身に防がれた脚が若干痛むが…それより眼前の女の覚悟・・を受け止めることに集中したかったのだ。


 ——私は、そこでようやく初めて、「緊張」で汗を垂らした。


「おいチンピラ3人!タオル降参は取り消しだ!」


 取り巻きの3人を下がらせて、徐々に速力をあげながら接近し、首に掛けた毛皮・・(※屠鬼閣落)を強く握り締めて振り下ろす…

 ——…満身創痍の水牛獣人はそれに反応し、青龍刀を横にして受け止めた。


 嬉しくなってきた…、ああ…ああああああ…沁み渡る……ああ…戦いへの高揚と…目の前の女をこの『殺意』……!


「聞こうか、お前の名前」


「デルタ…!」


 閃光撒き散る鍔迫り合いの中、ヴァラックは初めて・・・真っ直ぐ目を見た…射られる瞳に若干の緊張が走りながらも水牛獣人は、向けられた視線を見つめ返した。


「『女衆レディース』副隊長…デルタ・カーネーション…!」

…改めて、デルタ・カーネーション…!」


勝負・・を始めよう…!」

「「「!?」」」


 チンピラ3人組みの驚きの声を無視して、ヴァラックは水牛獣人…デルタの返事を待った。

 時間にして僅か数秒流れた時、デルタは青龍刀を斜めに倒してヴァラックの武器…屠鬼閣落トキコツラクを滑らせた。


シャ…!

「これが…」

「!」


「答えです…!」


 体勢の崩れたヴァラックに足払いを放った後に、振りかぶった肘を顔面にクリーンヒットさせた。

 堪らず『よろり』と数歩下がる…、ああ…なんて淫靡で素晴らしい『返事・・』に思わず殴られた衝撃を忘れそうになる。


「次のワンダウン…次のダウンで勝負だ」

「はい…!」


 交差する互いの視線を楽しみながら、挑戦者デルタは地面をその太い両脚で突き…、駆け抜ける。

 待ち構えるは『脅威ヴァラック』、悠々と掌で『屠鬼閣落』を半回転させ逆手に構える、地面を削る様に下の下の下…最下段に構えて迎え撃つ。


「!(また地面に…目眩し!?いや2回目は…ッ)」

「バハーーーッ!」

「!」


 再び地面がひっくり返されるかと思考を巡らせたデルタ、しかしヴァラックの一喝によりその思案は中断させられた。

 …だが、瞬時に迷いを打ち消したデルタは、青龍刀を力強く握るのだ。


「ッいいや!このままで…いい!」

「!(迷いを、捨てたな!)」


ガキィ     …ィィン…!


 共振する二つの金属音と共に2人は打ち弾けた…、だが僅かにヴァラックの方が大きく体勢を崩した、それに驚きを隠さないヴァラックは自身に掛かる影を見逃さなかった。


「舐めるな」


 体勢を崩したヴァラックに間髪入れずに追撃を浴びせたのである、自身に迫る刃先を背をのけ反らせ、手を地面につけないブリッチもどきで回避する。


「!体柔らか…いんですねッ!!」

「普段避けん・・・だけだ、普通に柔軟マスト、バハハー…!」


 自身の攻撃で憧れのヴァラックに回避する選択を与えた事に「それは光栄…」と、本当に嬉しそうに溢すデルタ…。

 それはそうと、戦闘中なのでデルタはすかさず脇腹に向けて青龍刀を突く…のだがこれも見事に避けられる。


「!?(その体勢で更に膝を曲げた・・・・・!?)」


 ヴァラックは、『L』を右に90度傾けたような、殆ど膝を90度に曲げたまま上体を地面と水平にする異次元の体の柔らかさを披露する。

 普通ならばアキレス腱辺りが悲鳴をあげる体勢だが、これも柔軟なのか物の見事にキープしていた。


「フッ!!」

「な!?」


 当然、そんな隙を見せたままにしないヴァラックは、胸の前でクロスした腕を、両脇の地面に力強く地面へ叩き付ける。


「ブッ…!!」


 地面に拳がぶつかる反動で浮き上がった体は、元通りの直立へとなったのだが、デルタが追撃に半歩前に出たため、ヴァラックのマスクがデルタの顔面へ衝突した。


「レディの顔面2度もブツのは気が…いや?驚くほど何とも思えないな…ー!」

「っつぅ…ウォラアーッ!!」


 僅かな怯みの後に即応した蹴りが、ヴァラックの股下を強打する…、いくら『ついてない』女性とは言え、体を支える骨盤や背骨にモロに響く攻撃だ…


「うぐ…っ…!」


 流石のヴァラックも痛みのあまり体を少し丸める、その隙を狩るようにデルタは上段からの拳によるパワーボムを浴びせた。


「はーーー…ッッ!」

「グバ…ッ〜…ァ…!」


 デルタは更なる追撃を掛けようとしたが、今まで予想外の攻撃を仕掛けてきたヴァラック相手にそこまでの深追いは危険と判断し、数度のバックステップで軽く下がって呼吸を整える…。


「よぅ…し…(重い一撃…間違いなくダメージになってる…!)」

「ぐぅ…(流石に獣人種…ッ!私に通るレベルの力を持ってやがる…ッ…いてぇ…)」


 フラッシュした視界を無理矢理戻すヴァラック、若干の白みを帯びた視界・・・・・・・・なのは脳に一時的な『機能障害』をおったのだろうと、自己判断したヴァラックは脳を回す為に何度も深く長い深呼吸を繰り返す。

 互いに近接系パワータイプで更に技巧的な戦闘という、意外にも似たスタイルを持つ両者は、純粋な実力勝負になる訳なのだが…


「バハハハーーーーー…ッ!!!」


 歴が違う、ヴァラックはモンスターの高レベル帯・・・・・の地域で活動する冒険者だ、場数に圧倒的な差がある。


はや…ッ!?」

「『技術スキル』…」


 …ルアンの街は極寒の寒冷地、モンスターもあくまで生物・・だ、寒い地域のモンスターは少ない食料を求めてより凶暴に…狡猾に…獰猛に、そしてエネルギーを蓄える為により大きく、それに合わせてパワーも上がる。


 バハハハーーッ!この「技」で、ちょいと遊んでやるか…!

凶悪砲ダーティー・ショット!」

「ぐぶ…ッ!?」


「ババーーー…ッ!」


 …同スペックであろうと、格上と戦って生き延びてきたヴァラックに勝てる訳がない。


「いい強さだ!」

ザッ!ザッ!ザッ!


 …ヴァラックの放った『技術スキル』により顎に拳が突き刺さる…、『凶悪砲ダーティー・ショット』は這い寄る蛇の様に一瞬で短距離を移動して、低い体勢をピンっと伸ばして放つ、駆け登りアッパーカット。


「ふんッ…"ブシッ!"(重い…反撃…だが、それでこそ憧れた…!)」

「"くらっ…"…っ…バハハ…ッ!(これは…ササキさんより強いな…!それでこそ…)」


 『凶悪砲ダーティー・ショット』により更に噴き出した鼻血を、手のひらで受け止めながら地面に片膝をつくデルタ…しかしヴァラックも頭を抑えて僅かにフラつきながらデルタへ歩を進めるが…顔色は優れない。


「バハハハッーーーッ!!!」

「ふ…フフフハハ!!!」


 互いに流血に打撲の重症温まってきた所…お互いがお互いに凶暴に笑い合うのだ、その闘いを見守っていたチンピラ三人衆は、自分の呼吸音すら聞こえてくるほど緊張した顔つきで2人を見つめる…


「「それでこそ闘いがいやりがいがある!」」


 …もっとも、両者すでに目の前の強敵憧れに夢中になって、周りなど眼中にない。

 目の前にあるのは一輪の花…、互いが互いにボロボロになって尚、そのは美しいのだ…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る