第4話 因縁の終焉
タイショウの拳が僕の頭蓋骨をもろに打撃する。
足を貫く剣諸共、後方に吹っ飛んだ。
クソッ。強烈だ...目がチカチカする。
鼻から血が垂れてきた。
迫り来るタイショウ。
世界が歪んで上手く剣を引き抜けない...!
コンっ。鞘に触れた。
僕は脚から引き抜いた剣を掲げる。
立ち上がる時間も無い。
その高さはタイショウの腰上ほど...。
掲げた剣がタイショウの下腹部を突き刺す。
みるみると飲み込まれていく剣先。
僕の力じゃない、タイショウが突き進んでいる...!
「う"ぉらぁあああ‼︎」
咆哮をあげながら拳を振り上げるタイショウ。
彼の拳が僕の視界の全てを埋め尽くす。
これが...タイショウの執念‼︎
ボトッ。目の前に落ちたタイショウの腕。
引き抜いた剣で彼の右腕を切り落していた。
本能的な無意識の境地...
タイショウが眉を吊り上げ膝から崩れた。
その上半身を震える片腕だけで支えている。
顔を上げたタイショウが僕を睨み付ける。
僕らの目線が交差する。
「テメェは全てをぶっ壊した最悪の悪魔だッ...
その未来に...不幸が..降り続けることを願って..
タイショウの腕の力が抜ける。
僕の肩に、大嫌いな顔を押し付けて動かなくなった。
「僕はお前が嫌いだ。大嫌いだ。お前も同じならせめて、その手で僕に呪いを刻め。願ったって何も変わらない。」
僕はタイショウのだらんと垂れた左腕を持ち上げる。
その先にある開いた手に僕のナイフを握らせた。
まだ微かに息がある。
「僕もお前も楽に死ねるような善人じゃない。」
僕は、サザンカの剣を握る。
ハァハァ...ガハッ..ハァハア。
耳に付くタイショウ僅かな息。
「いいか?僕はこの手でお前の人生を終わらせる。これでお前との因縁も最後だ。」
タイショウの顎を掴んで顔を持ち上げる。
僅かに開いた目が細く歪んだ。
タイショウの首元にサザンカの剣を添える
ニッと釣り上がった口元。血に塗れた白い歯がハッキリと見えた。
「じゃあな...。」と呟いたタイショウ。
僕はハッとしてタイショウの目を見る。
それは見た事のない、普通の笑みだった。
タイショウの首に添わせた剣が、その首を落とす。と同時、彼が最後に振り絞った力...僕のナイフが左胸を小さく抉った。
「お前の事、忘れない。」
僕は小さく呟いて、タイショウの胴体を横にした。
転がった頭部と右腕を側に置いて。
彼の屍を背に喧騒の中心へと向かう。
数多くの人が血を流して倒れている。
その中心部でロスとサザンカが会話をしている声が聞こえた。
「その剣の腕は大したものだ。
その力を我らが大志の為に使うと約束すれば、コピルに会わせてやってもいい。」
「先に会わせろ。約束はそれからだ。」
「兄であるお前の話は聞いている。
希望通り会わせてやってもいいが...」
サザンカがその後何を言ったのかハッキリと聞こえなかった。
「コピルをここに。」
サザンカの指示で離れた村人。
僕は少しずつ2人に近付いて行く。
2人を囲うように群がっている村人達。
そこに戦意は感じない。
僕が近付くと、村人達は武器を握る手に力を込めた。
サザンカは僕をチラリと見て、すぐに視線を戻した。
「喧騒の中の再会は不憫だ。
この兄弟の再会が終わるまでは一時停戦する。」
村人達は、その言葉に従い素直に武器を下ろした。
そして、僕に道を開けてくれた。
僕はロスとサザンカの少し手前で足を止める。
目を丸くしたロスが僕を見る。
違う...僕の背後を見て目を丸くしているんだ。
僕の背後から聞こえる小さな足音。
そして、僕の横をスッと通り抜けたのは___
肩まで伸びる無作為な白い髪。ロスとは対照的な白い肌。透明な瞳。
以前とは異なる雰囲気のコピルの姿だった。
「テリー!!!」
ロスの感嘆の叫びが辺り一面に広がった。
「本当にテリウスだったんだな。ずっと探していたんだ。生きていてくれて良かった。」
見た事ない程の優しい微笑みを浮かべ、瞳を揺らすロス。
「テリウス。それが本当の名なのか?」
サザンカが首を傾げた。
「テリウス...それは僕の昔の名前。今はコピルだよ。」
そう言ったコピルの表情は僕からは見えない。
「僕は探して欲しいなんて、また会いたいなんて思ってなかった。
兄さんはいつも身勝手だよね...。」
一転したロスの表情。
ロスのいつもの強気な雰囲気は無く、薄い膜に触れるように...慎重に言葉を探しているように見えた。
「それが無意識だからつくづく嫌になるよ。
僕を守ろうとするのは、僕が弱いって見下しているからでしょ?」
「違う!俺はテリーが大切なんだ!
お前だけは傷付けたくないんだ!
無色透明だった世界が...お前が産まれた瞬間に色付いた。
テリーが初めて目を開けた時、その澱みのない瞳に救われた。
俺には持つことが出来なかったその優しい心を必ず守り抜くと決めたんだ。
それはお前が強いとか弱いとか関係ない!」
僕はロスから目を逸らした。
痛い。胸が痛い。
父さんはこんな痛みを抱えていたのか...。
僕だって少しの間だけど、ロスを見てきた。
だから、彼がこんな顔をしているのを見るのは辛い。
彼の表面上の強さ恐ろしさの内側は、どうしようもないくらいに優しくて脆い。
「でもね、それが僕を苦しめたんだよ。
兄さんが輝けば輝くほど、僕は卑下された。
母さんも父さんも周りのみんなからも僕は必要ないって、ね。
でも僕はそれでも良かったんだ。
争いが起こるよりもずっといい。
なのに兄さんは強さを求め続けた。
一国の兵士じゃ飽き足らずに、軍の総隊長にまでなるなんてさ...」
「お前を守る為だったんだ。本当だ。
あの国の権力を握る浅はかな奴らから守る為には、俺も武力を..権力を得る必要があった...。」
「母さんと父さんを殺したのも僕の為?」
ロスの表情が固まった。
「...なんでそれを...?」
「サザンカから聞いたよ。」
「ッ...すまない!!
あの瞬間に俺は我を失った。
"許せない"という憎悪に呑まれ、剣を抜いた...。"それがどうしたんだ"と呑気に笑う姿を見て...ッ俺はどうしても許せなかった。」
「まあ、なんでもいいけどさ。
兄さんと此処を出るつもりはないよ。
僕を守る為に強くなったのなら、その強さをザザンの為に使ってよ?
それが僕の唯一の望みだから。
ね、兄さん?」
ロスは顔を顰めるように頷いた。
「話は決まりだな。
では、最初の任務を任せよう。
我々の目的のひとつ、国王制の廃止。
奴を殺せ。」
サザンカが僕を真っ直ぐ指差した。
やれ__________。
サザンカの喝に、歯を食いしばったロス。
僕はナイフを握りしめた。
そして、ロスに叫んだ。
「約束したじゃないか。
何が起こっても、僕等は互いの目的を果たすって。
命を賭けて剣を交えることになっても、僕らは戦友だって。」
ロスの瞳がやっと僕に向いた。
くふっ。ありがとう、ロス。
僕にそんな顔を向けてくれてありがとう。
「神でさえ全ての人を救ってくれないんだ。
だったら僕たちは選ぶしかない。
選びなよ、弟を。僕だったらそうするからさ。」
ロスが剣を鞘から引き抜いた。
僕はナイフを構える。
ロスの全てを受けて、僕は帰れるだろうか?
いや帰らないといけない。必ず_________。
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