第13話 女兵長
階段にはずらっと並ぶ兵士の層。
そして踊り場には、腕を組んで僕を見下ろす女性兵士。
彼女はロスが言っていた...兵長。
目を逸らすように顔をしかめたセナの姿。
「なんで...。」
やはり裏切られていたのか...。
そんなのはもうどうだっていい。
なあ、なんでアイナさんの側にいないんだよ?
僕はセナの存在を無視してナイフを振り回す。
背後に置いてきた兵士たちが次々と迫ってくる。
「もう1人の侵入者はどうした?」
女兵士の声が頭上から伸びてくる。
僕に聞いているのか?こっちは顔を上げている暇はないんだ。
僕はその声を無視して交戦し続ける。
喧騒の中、頭上で小さな話し声がする。
「ただ今、1階階段にてシュガ護衛官と交戦中です。」
「そうか。まぁいいだろう。1人ずつ処分する。」
「出来るものならやってみなよ!!」
僕は声の主をキッと睨みつける。
女兵士は動じることなく、ただ卑下するような目を向け続けた。
踊り場まであと少し...。
背後で剣を振り上げる巨体の兵士。
その腹部に思い切り蹴りを入れる。
崩れた巨体は、他の兵士を巻き込みながら雪崩のように転げ落ちる。
後ろが空いたことで戦いやすくなった。
前から迫る兵士の攻撃を受け流し、その背中を押す。足をかけ、次々と転げ落とす。
ここまで来たら下段のが有利だな。
階段の下には、兵士達が随分と溜まっている。
僕の左足が、踊り場に掛かるとほぼ同時に
女兵士の一声がピシャリと響いた。
「止まれ!斬られたくなければ、私の指示まで動くな!ここは私の間合いだ!」
周りにいた兵士たちの動きがピタリと止まった。
セナはそっと後退りし、踊り場には僕と彼女の2人だけが見合っている。
喧騒に耳が慣れたのか、聴覚がどうかしてしまったのか、音の無い世界に迷い込んだような静けさ。
「1秒たりとも惜しいんだ。悪いけど、通らせてもらうよ。」
僕はナイフを背に隠し、先に仕掛ける。
強く踏み込んだ一歩で間合いに入ると、大きく右手を振りかざす。
彼女は僕の動きに合わせて剣を構えた。
「そっちじゃないよ。」
左手に持ち替えていたナイフを彼女の腹目掛けて押し込む。
先端が少し食い込んだところで彼女の腕が僕の腕を強く掴む。
差し込めない...!
彼女は僕の腕を掴んだまま後ろに下がった。
ゆっくり現れる刃先は確かに赤く染まっている。
その先端が現れると、彼女はグッと僕の腕を引き寄せた。
されるがままに沈む頭...まずい!
迫り来る膝。
誘われるがままに強烈な膝蹴りが入った。
ガハッ...!!
またかよッ!
頭がくらくらする。
強烈な痛みと吐き気が襲ってくる。
「私が、小手先で翻弄されるとでも思ったか?その辺の雑魚兵士と一緒にされるのは腹立たしいな。」
覆った掌の隙間から見えたのは、陰を帯びた猫のような瞳。いや猛獣だ。
背筋をゾクリと悪寒が走る。
身を引こうと身体を捩るが、彼女の剣がそれを許してはくれない。
あ...冷たい...。
冷たいと感じたのは一瞬で、それから温かい血がドクドクと下半身に伝う。
左脇腹を貫いた剣から、滴る血は足元に容赦なく溜まっていく。
これが僕と彼女の力量の差...。
頭に響く鼓動は、次第に大きくなってくる。
ああここで死ぬのかもしれない...。
セナ、見てるかな...?
僕は中途半端な気持ちで君との約束を破った訳じゃない。
中途半端な気持ちでここまで来た訳じゃない。本当に君のお姉ちゃんとお母さんを守りたかったんだよ。
僕の覚悟を見ててくれよ...。
僕は、強く一歩を踏み込む。
根元にかけて太くなる剣が、綺麗な皮膚までも切り裂く。
彼女がその剣を引き抜こうとする。
僕は、その日焼けたしなやかな腕にナイフを突き立てた。
骨を避けるように、ナイフが筋肉をギチギチと押し進む。
貫いた...!
そのまま縦に割くように力を込めた。
苦痛の声をなぞるように傷口が開いていく。
彼女は咄嗟に力を込めたのか、収縮した筋肉にピタリとナイフの進みが止まった。
彼女の剣が勢いよく引き抜かれると、想像よりも綺麗な鮮血が堰を切ったように流れ出した。ハァ...痛い...痛すぎる。頭まで壊れそうだ...。
鋭い前蹴りにナイフを握っていた手は引き剥がされる。
宙を舞う。
着地する力も残ってはいない。
ドサッ。捨てられた人形のように力無く地に横たわる。
女兵士は腕からナイフを引き抜くと、僕の足元に投げ付けた。
「まだ、まだだ...。」
そう言うことだろ...なあ?
「僕はまだ...まだ戦える...。」
視界の奥にぼんやりとセナの姿が映った。
小刻みに揺れている緑色の瞳。
少し太い眉毛が八の字を描いている。
ユナもそういう表情をしてたっけ...。
セナの瞳は僕の情けない姿を離そうとしない。彼の足と腕に力が入ったのを見て、僕は首を横に振った。
駄目だ。お前はそっち側にいろ。
せめて、それくらい言うことを聞いてくれ...。
「ロス、逃げろー!!」
最後に振り絞った声だった。
ロスは耳がいい。必ず聞こえている。
ありがとう、こんな僕を友と呼んでくれて...。
こんな所にまで着いてきてくれて...。
時間くらいなら稼げる。
ふらふらと立ち上がった、僕の視界を覆ったのは...
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