第32話:「証明(Verify)」
眩さに慣れた眼前いっぱいに、茜がひろがる。
冷たい空気を胸いっぱいに吸い込むと、かすかに草木の匂いがした。
――本当に、外だ。
塔の屋上。風に長い髪を揺らす白衣の女が、ひとり。
その頭上にはロジエルは無く、観音の光背のような円形の蒼い光が何重も重なっている。
「ようこそ、【TOKER】。君を待っていた」
「てっきり【PLAYER】が来ると思っていたよ。……でも、この結末は嬉しい誤算だね」
その声は――ロジエルと同じだった。
「……あなたが」
女は微笑む。
「初めまして。いや、再会と言うべきか。
私の名は、
記憶の底が疼く。
朝練で倒れ、保健室のベッド脇に立っていた白衣の人
――そこから先は白く途切れている。
「そう。招待したのは私だ」
「巻き込んでしまって、本当に申し訳ない」
オルハ博士は深々と頭を下げる。
「なぜ、こんなことを」
「こうしなければならなかった」
織羽の瞳は、狂気ではなく確信の光を宿している。
「今、人類を未曽有の危機に瀕している。
完全に荒廃した地球――その少し前の時間に、私たちはいる」
「この先の未来……?」
「私の
「この滅びの未来を変えたい。そのために君たちのような天使を作ることを決めた。」
失われた命、積み上がった犠牲――問い質したいことは山ほどある。
だが、言葉を遮ることはできなかった。
オルハは続けてこう説く。
「破滅に対して、私なりに用意周到な策を準備してきた。」
「だがそろそろ結論を出すべき時が来た。」
「私と闘って欲しい」
風が彼女の長い髪を揺らす。
「……あなたと?」
「そうだ。確信が欲しいんだ」
「この施設で最強となった君と、私の設計した最強のどちらが本物かを。」
トーカは目を見開く。
(本気なのだろう…)
「簡単に負けるつもりはないよ。それこそ【PLAYER】なんかよりは千倍は賢いからね。」
彼女は頭をトントンとしながら悪戯っぽく笑った。
「君はこの施設を勝ち抜いてきた最強の天使だ。」
「非常にユニークだ。何人もの英雄の残滓を束ねて、進んできたんだね。」
「私も未曽有の厄災を防ぐため、牙を研ぎ続けてきた最強の天使だ。」
博士の白衣がひるがえり、背後の塔の影から巨大な機影が姿を現す。
「RAINMAKERの設計思想をベースに小型化、高速化したものだ。」
彼女はコックピットに格納されるように滑り込み、人機一体となった。
「さて――君に付き従う“英霊”の弱点は、どの因子だろうね」
オルハはぶつぶつと言いながら思考を開始する。
「まずは核なんてどうかな?」
独りごちると、機体のハッチが開き、アームが冷ややかな弾頭を持ち上げた。
「最強は二人もいらない。」
「はじめようか…!」
最後の戦いがはじまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます