第3話 3年振りに2人きりだね

「皆~! 盛り上がってますかーっ!」


「「「ハ~イ!」」」


「良いですね。良いですねっ! じゃあ……不肖ながら佐伯さえき静華しずか。歌っちゃいます……… OHAGIダァーッ!!」


「「「イエエェェィィ!!!」」」


「ARASIMUKUおま……」


 クラスの親睦会という事で小春に強制的にカラオケに連行されたんだけど……


静華しずかちゃん。相変わらずはっちゃけてるな。ていうかあれなんて曲?」


「ドンドドンってバンドが歌ってるOHAGIって曲だよ。最近SNSとかでバズって若い子の間で流行ってるの知らない?」


「……う、うん。知らないかな。僕。あんまりSNSとかしないからね」


「ふ~ん。なら私が蘭に教えあげようか? 手とり足とりさ?」


 なんか……距離感めちゃくちゃ近くないかい? 小春っ!


 僕が席に座ると同時にやって来たと思ったら右隣にいきなり座ってさ。


 密着するくらい身体近いし。何でYシャツの胸元開けてるんだい?


「いや。いいかな。そういうのは静華ちゃんがたまに教えてくれるしね」


「静華ちゃん?……あー、蘭の幼なじみ。へーまだ同じクラスなんだ。仲が良いんだね。蘭と佐伯さんって~!」


 小春はニコニコと笑いながら僕と静華ちゃんを交互にいている……この小春の行動は内心はイライラしてる時の行動だ。


 付き合っていた時の小春はイライラを解消する為に僕の身体をぎゅっと抱き締めてたっけ。懐かしいな……


ギューッ!

「……あの小春さん。何で僕の身体に抱き付いて昔みたいにギューってしてるんだい? 僕達。今は付き合ってもないよね?」


「ん~? あー、ごめんごめん。ちょっと昔のクセが出ちゃっただけだから気にしないで気にしない。それにクラスメイトの皆は今。佐伯さんに夢中だから私達の方は向いていないから大丈夫だよ」


「だ、大丈夫って……何か距離感バクってないかい? 僕達もう恋人でもないんだけど」


 何をイライラしてるのか分からないけど。このスキンシップの仕方。元恋人に対してやる事じゃないでしょう。普通。


「むっ! 酷い事言うな~! 高校生に成長した蘭はさぁ。別に良いじゃん。それに元恋人同士の距離感がバクってるなんてよくある話でしょう? 付き合っている間にあれだけお互い色々と腹の内を見せ合ったら距離感もバクりますよ。元彼君」


「いや。あの時は小学生で。今はお互い高校生になって色々と成長しているんだけど……さ」


 不味い。一瞬。小春の成長した胸を見てしまった。


「ん~? 私のどこが成長したって? それに。蘭……君。一瞬だけ私のおっぱい見たでしょう……エッチ」


 何で顔を赤く染めて恥ずかしがるんだい? 恥ずかしいのは小春のバクってる距離感の方なのにさ。


「はっ? いきなり何言ってんの? 小は…」


 僕が座っている椅子から立ち上がり小春と距離を取ろうとした瞬間。小春は僕の右手をガシッと掴んできたんだ。


「そんな事より。ちょっと私の予定に付き合ってよ。蘭……私、元彼が友達に馬鹿にされてるなんて凄く嫌なの」


「は? ちょっ! 親睦会はどうするんだよ。友達達は?」


「凛達には途中でドロンするって言ってあるわ。それに蘭のお友達にもね」


「そんな話。僕聞いていないんだけどーっ?」


 相変わらず小春は自分のペースで物事ものごとを決めていくね。


 そういうところは昔と全然変わってないじゃないか。


《カキブラザーズ美容室》


カラ~ンッ! カラ~ンッ!


「あら……小春ちゃん? いきなりどうしたのよ? 先週来たばかりなのに?」


 おしゃれな美容室の扉を開けたその先の扉には筋骨隆々のスキンヘッドのゴリ……男の人がハサミを持って立っていたよ。


 何これ? 僕あのハサミで切り刻まれたりするの?


「カキさん。この人私の元カレの蘭君です」


「こ、こんにちは。ゴリ……カキさん」


「んまぁ~! ちょっと凄い地味な子じゃない? 何? 復縁? もしかして付き合い治すの? それで小春ちゃん好みにの彼氏君に育てあげちゃうの?」バキッ!


 なーに? この人。興奮し過ぎて素手で近くにあったドライヤー粉々に粉砕しちゃったよ。怖。


「べ、別に復縁なんてしません……まだ。それよりも私の元カレ君をビフォーアフターしちゃって下さい」


「ムハァーッ! OKよぉ! こんな魔改造しがいがある天然素材良い感じに品種改良してあげるわ。お金は小春ちゃんからきっちり払ってもらうけど」


「ちょっと待ってっ! 小春。こんな小春の暴挙を僕の家族が許すと思ってるの? こんなの僕に対していじめ……」


「蘭のママとマイマイからはとっくに魔改造のOKもらってるよ。入学式があった日の夜に連絡したら2人ともこころよくOKしてくれたもん」


「はっ? 僕。そんなの聞いてない。つうか母さんも舞もなにかってに決めて……」


ガシッ……ミシミシッ!!


「あら? どこに行こうとしているのよ? 元カレ君。貴方は今から生まれ変わるのよ……小春ちゃんの隣にいて相応しい元カレ君にね♡」


「いや。僕。そんな事望んじゃいな……いんですけ……ギャアアアアア!!!」


 その日。僕は思い出した。小春と付き合っていると色々な事が起こるということを……


《次の日 蘭の所属クラス》


「おはよう~! 蘭。昨日から生まれ変わった髪型はどう?」


「ん? あぁ、おはよう。小春……」


「うんうん。おはよう。それで? 髪型を変えた感想とかある? そっちの方が前よりも目見えやすく……」


「……朝。別のクラスの女の子に告白されちゃったんだ。どうしよう?」


「………はい? 別のクラスの女の子に告白?!……な、な、な……」


「奈良漬け?」


「何よそれぇぇ!!!」


 朝から元カノの叫び声が教室内に響き渡ったよ。本当に昔から元気な娘だよね。小春はさぁ。



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