第21話「雷兆と共に来りて」

「誕生日おめでとう、ナーレ!」


両親の明るい声が響く。

でも、外は雷雨がゴロゴロ。

まるでこの祝福を否定するみたいに、雷鳴が吠える。


「ありがとう、お父さん、お母さん!」


笑って返すけど、心のどこかで思う。

この不穏な空気、みんな逃げようとしてるのかな。

誰もが、今日が「悲惨な一頁」にならないよう祈ってる。


「さあ、料理食べて飲もう!」


「私は飲めないわよ。」


いつもの両親の掛け合い。

ようやく温かい空気が戻ってくる。


暖炉の炎がパチパチ爆ぜて、

ほのかな明かりと暖かさが食卓を包む。

三つの座椅子が、私たちを優しく受け止める。


その空間に、意識を集中する。


「ナーレ、今日で十三歳。晴れてレディーだな!」


お父さんが、ちょっと感慨深そうに微笑む。


「長かったわね……最初は不安だったのよ。」


お母さんも、お父さんを見て同じような顔。


「何が不安だったの?」


「ナーレが三歳の頃、変なことがあって。

いつも何もない空間をじっと見て……誰かに挨拶したり、話しかけてたり。」


「え!? そんなの覚えてないよ!」


「でしょうね。五歳になる頃には、自然と収まったから。」


「そうそう。虚空に話しかけてたんだ。

まるで“悪魔憑き”かと思って、ちょっとドキッとしたよ。」


「悪魔憑き?」


その言葉、なんか不穏。


「悪魔憑きって、幼い魂を蝕む精霊のこと。

取り憑かれると、奇妙な行動を取るの。」


「最終的には心を乗っ取られる。

寺院でも危険視されてる病だよ。」


「でも、ナーレは違ったみたい。

ただの“自我の芽生え”だったんだと思う。」


「だから、安心したの。

五歳になると、そんなことなくなったから。」


「ふーん……でも、悪魔憑きって、どうなるの?」


両親が濁した部分、気になって聞いちゃった。


「う……そうだな……。」


お父さん、言いよどむ。


「寺院に保護されるわ。その後は、わからない。

寺院は秘密にしてるの。」


「秘密!? なんで?」


「わからない。ただ、他の人への影響を防ぐため、って話だけど……。」


「この話、やめよう。今日はナーレの誕生日だ。」


「そうだな。誕生日おめでとう。

そろそろ選別の儀だな。」


「うん……気になってるんだよね。何やるのか全然わからないし。」


「仕方ないわよ。選別の儀は他言無用なの。

みんな違う経験をするから、参考にならないの。」


「そうなの?」


「そうよ。お母さんのときは、広い海辺に一人。

四つの石像があって、上級神、中級神、下級神、藩神を模してたの。」


「石像に火を灯して、目を閉じたら声が聞こえて、

目を開けたら、一つだけに火が灯ってた。」


「それで?」


「私は中級神に選ばれた。ただ、それだけ。」


「お父さんも同じ?」


「場所は違ったけど、似たようなもん。俺も中級神だった。」


「で、何ができるようになったの?」


「それは、わからないの。

目に見える変化だけじゃない。……でも、何かが変わった感覚はある。」


(うーん……さっぱり。)


「全てが秘匿されてる。」


それだけが、わかったこと。


何も変わらない。

全てが秘密のまま。


神の姿も、

その裏で糸を引く“何か”の影も。

全部、宵闇の奥、静かに苔むした場所に隠れてるみたいだった。

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