第18話「不揃いな三拍子」

「やっと授業終わったぁ……」


私はぐったりしながら、フィーネに声をかける。


「ほんと、ナーレ、薬草学ぜんっぜん向いてないよね?

目盛りついてるのに、どうやって分量間違えるの?」


フィーネ、完全に呆れてる。


「だってさ、細かく切るのは得意なんだから! そこは認めてよ。

でも、目盛りで量るのめんどくさいじゃん。大体でいいよね?」


私の“目分量”は、お母さん直伝の「適量」感覚。

つまり、「手で握ってこれくらいかな〜」って、超テキトーな基準。


「それで料理とかできるの……?」


フィーネの目が、「この人の食卓、将来やばそう」って言ってる。


「大丈夫だって! 料理には調味料って魔法の方程式があるんだから♪」


自信満々に胸を張ってみた。


「……あー、これはダメだ。」


フィーネ、未来の惨状を想像して絶望モード。


「お願い、せめて基本だけでも覚えてよ……。」


フィーネの切実な訴え。めっちゃ不安そう。


「だいじょーぶ! 食べる前に“やばい”って気づくから!」


ニコニコで答えたら、フィーネの顔が青ざめた。


「そうならないように、ちゃんと調整するんですわ〜。」


背後から、のんびりしたけどズバッと核心を突く声。


振り返ると、フリルの修道服を着たアヴェーラがニコニコ。

どこか浮世離れした雰囲気で、こっちに近づいてくる。


「アヴェーラ……いつから聞いてたの?」


「“目盛りで量らなくても大体でいい”あたりからですわ♪」


アヴェーラ、くすくす笑いながらお辞儀。

当然みたいに私たちの隣に並ぶ。


「おふたりとも、ごきげんよう♪

まだお昼食べてませんよね? よかったら、私もご一緒してよろしいかしら?」


控えめだけど、しっかり誘ってくる。


「……また何か企んでるでしょ?」


思わず詰め寄る。

だって、アヴェーラのお誘いって、だいたい碌なことないんだもん!


(前は“新作ジャム”って、十二種類のジャムパン食べさせられたんだから!

余ったジャムもらえたけど、三週間ジャムパン生活……思い出したくないよ!)


「ナーレに無理強いなんて、したことありませんわ。

あのジャムは、痛む前に食べてほしくて……私の善意ですのよ?」


アヴェーラ、むしろ抗議するみたいな顔。


「はいはい、どーどー。二人とも揉めないでよ。

どうせ私、巻き込まれるんだから。」


フィーネ、ちゃっかり中立ポジション。

安全圏をキープしてるつもりでしょ。


「なんで毎回、私だけ……。」


小さく絶望の声を漏らす私。


「だって、そういうときこそ私、輝けるんですの♪」


アヴェーラ、うっとり夢見がちな表情。


「フィーネ、助けてよ……!」


懇願の目でフィーネを見る。

(お願い、理不尽が歩いてくるの、もうやめて!)


「諦めなよ。アヴェーラって、ご令嬢はナーレにぞっこんなんだから。」


フィーネ、苦笑いしながら完全諦めモード。


(神様! ここに救いを求める乙女がいるよ! ここ!)


「それでは、まいりましょう♪」


アヴェーラ、“ご令嬢”らしからぬ握力で私の腕をガシッと掴んで引っ張る。


フィーネは「やれやれ」って肩をすくめながら、のんびり後ろをついてくる。

三人で、食堂棟へ向かった。

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