第16話「濡れ鴉達は低空に拠って」

こちらは神材派遣管理会社「ユル」でございます。


エピソード16:濡れ鴉達は低空に拠って




裏門の突破、成功!

でも、これってまだ序の口。

本当の難関はこれからだよ。


医療棟前の薬草畑を抜けて、南北の出入り口前の噴水広場を横切らないといけない。

あの広場、人目につきやすいんだよね。

まるで、ガラス窓が意志を持ってこっちをじっと見つめてるみたい。


「フィーネ、目も耳もいいんだから、先頭お願いね!」


フィーネは私の腰にしがみついて、縮こまってる。

小柄な私に隠れようとしてるみたい。


「運命共同体って言うけど、真っ先にバレるのはゴメンだよ?」

フィーネ、めっちゃビビってる。


「大丈夫だって! 私の知恵とフィーネの感覚があれば、絶対なんとかなるよ!」


私はフィーネの手を無理やり引き剥がして、前に押し出す。

先導役、決定!


「こういうときって、だいたい失敗するんだけど……」

フィーネのぼそっとした呟きを無視して、薬草畑を進む。


医療棟の窓には薄い紗がかけられてて、ぼんやりしてる。

窓の向こうの人は、こっちに興味なさそう。動く気配もない。


薬草畑にはタイムやセージがキレイに並んでる。

端っこの畑は土が掘り返されて、農具が散らばってる。


「ラベンダーでも植えるのかな?」

フィーネが土の深さやハーブの様子を見ながら呟く。


「うん、ラベンダーの根ならそのくらい掘るよね。」                        

私は頷きつつ、先を見据える。


さあ、ついに難関だ。

噴水広場に足を踏み入れる。


南北の出入り口に面した広場は、見通しが良すぎる。

ガラス窓が、まるでこっちを監視してるみたい。

何か飛び出してくるんじゃないかって、ドキドキする。


私たちは生垣の陰に隠れて、中腰でそろそろ進む。

噴水の水音、鳥のさえずり、風の音――静かな朝の空気だけが漂ってる。


誰も見てない。

よし、大丈夫!

やっと小さな安心を手にいれた。


「早く教室に行かなきゃ!」


私たちは走り出す。

朝の光が学院の建物に差し込んで、土の地面に細長い影が伸びる。


出入り口を抜けて、廊下へ。

入り組んだ通路を進み、十字路を渡って、階段を駆け上がる。


運がいいことに、角で先生と鉢合わせなんて最悪の展開は避けられた。


そして、ようやく教室に飛び込んだ!


「間に合った……!」


心臓が飛び出しそうなくらいドキドキ。

世界がぐらぐら揺れそうだった。

私とフィーネは席にドサッと座って、机に突っ伏す。


「みなさん、おはようございます!」


突然、明るい声。

顔を上げると、クラス担任のネル修道女が立ってる。


「授業始めますよ? フィーネ、ナーレ、ちゃんと座ってくださいね。」


「はーい、ネル先生……」


二人で声を揃えて答えて、ホッと胸を撫で下ろした。                                                                      


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