第14話
第14章:新たな挑戦 ― 海外公演への序曲
武道館公演から一夜明け、東京は春の陽気に包まれていた。サクラがほころび始め、街路樹をピンクに染めるその光景は、まるで全国ツアーのフィナーレが新しい始まりへと連なることを祝福しているかのようだった。
1. 静かな余韻の中で
朝のカフェテラス。彩花(25歳)はお気に入りのラテを一口含み、深く息を吐いた。
「大和、昨日は本当に……ありがとう」
隣のテーブルで俺・結城大和(25歳)は笑顔でストローをかき混ぜながら頷いた。
「君が輝く姿を、最高の場所で見守れたことが、俺にとっても誇りだよ」
通りを行き交う人々のざわめきも、ふたりの胸には心地よいBGMに聞こえた。全国から駆けつけてくれたファン、支えてくれたスタッフ――すべての人々の顔が思い浮かび、感謝の想いがふたりの胸にあふれていた。
2. 次の夢への囁き
「みんなが、『海外でもやってほしい』って声をたくさんくれてるんだ」
彩花がスマホを取り出し、メールやSNSのコメントを見せる。アジア各国のファンから届いた熱いメッセージが画面を埋め尽くしていた。
「台湾、香港、タイ……どの国にも、ステージライトが必要みたい」
俺はふと、視界の先にある雑誌の見出しを思い出した。そこには「日本発アイドルの海外挑戦」という記事が並んでいた。
「海外公演か……確かに、次はもっと大きな舞台が待ってるかもしれないな」
「うん。私たちの物語を、もっと多くの人に届けたい」
3. 提案:シンガポール・フェスティバル
その日の午後、プロダクションのオフィスで緊急ミーティングが開かれた。参加者は、演出チーム、マネージャー、広報部、そして俺と彩花。席上には一枚のポスターが置かれている。
“Singapore Asian Music Festival 2026”――来年春、アジア最大級の音楽フェスに日本代表として出演オファーが届いたというのだ。
「彩花さんには、ここでのパフォーマンスがステップになると思います」
マネージャーの久保田が資料を広げ、説明を始める。会場規模は3万人、海外メディアも多数来場予定。日本からの参加は例年3組ほどだという。
彩花は瞳を輝かせながらも、少しだけ俯いた。
「……大和、準備はできるかな?」
俺はすぐに答えた。
「もちろんだ。これまで培ったノウハウをすべて注いで、君と一緒に世界に挑もう」
4. 新曲制作と多言語対応
提案の中身は想像以上に本格的だった。セットリストの再構成、新曲の英語詞・中国語詞バージョン、現地コラボ企画――準備項目は山積みだ。
「まずは新曲の歌詞を海外向けにリライトしよう。そのあと、シンガポール在住のコーラスグループとオンラインで合わせたい」
俺はラフスケッチを黒板に書き出し、演出プランを共有する。彩花は腰に手を当て、真剣な表情でメモを取った。
「衣装も現地文化をリスペクトしたデザインにしたい。日本とシンガポールの伝統文様を融合させて」
演出チームからは具体案が次々に上がる。和傘モチーフの傘舞、ランタン型ライトの演出、波模様を描くLED背景――。
5. ふたりの約束
打ち合わせの後、オフィスを出たふたりは都会の夜風に身を震わせた。街灯の明かりがアスファルトに反射し、小さな星屑のようにキラキラと輝いている。
「次のステージは、海外か……」
彩花はしばらく黙ったまま空を見上げた後、微笑む。
「大和がいれば、どんな場所でも安心だよ」
俺は彼女の手を取り、そっと絡めた。
「これからも、ステージライトの向こう側で一緒に夢を見よう」
彩花は小さく頷き、今日初めて見せるような大胆な笑顔を浮かべた。
―― 新たなステージは、アジアの中心で。ふたりの物語は、もっと大きな光を浴びて輝き始める。
次回、第15章「シンガポールの夜 ― 海外への扉編」、初めての海外公演で試されるふたりの絆と、新たな出会いをお届けします。
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