第6話
第6章:新たな序章 ― 全国ツアーへの約束
地元凱旋ライブから数週間――。
春の訪れを告げる桜が満開となった街並みを背に、俺・結城大和(25)は小さな会議室で、全国ツアーの最終スケジュール確認をしていた。テーブルには各地の地図と日程表、そして彩花から届いた手書きのメモが広げられている。
「大和、ここはどう思う?」
無線機越しではなく、直接隣に座る彩花(25歳)が、資料の隅に書かれた「地元ラジオ生出演」の項目を指さしている。ピンクのペンで丸を付けたその文字は、彼女の細やかな気配りと、地元ファンへの思い入れを示していた。
「うん、地元ラジオは必ず外せないね。あそこのDJさんとは昔からの縁もあるし、番組名は“朝ドキ!ヤマトーク”だ」
俺はスマホのメモアプリを開き、事務所から送られてきた公式日程に追加していく。
「全国ツアー初日は、福岡・博多のキャナルシティホール、その翌週が札幌・北海きたえーる……」
声に出してリズムを確認しながら、俺はテーブルの端にあったエナジードリンクを取り、一口だけ口に含んだ。
桜の花びらが窓越しにひらひら舞い込む。あの日、学園祭から始まったこの物語は、いつの間にか全国規模の大舞台へと広がっていた。俺たちのステージは、今や日本中を彩る未来へのプロローグとなろうとしている。
1. 新たな役割
「大和、今回はどういう役割?」
彩花が好奇心いっぱいに問いかける。
「裏方の統括と、今回もナレーション。ただ、せっかくだから今回はリハーサルの一部で、ステージ上の演出補助もやろうと思う」
俺は少し照れくさそうに笑いながら答えた。
「またステージに上がるの?」
「うん。ただし、彩花の影にならない範囲で。実は、サプライズで“マルチスクリーン演出”を提案してみたんだ。バックのLED映像と連動して、リアルタイムで彩花の表情を映し出す演出さ」
彩花の目が一瞬輝き、そして真剣な表情に切り替わった。
「それ、絶対に面白いよ! お客さんも今まで以上に感情移入してくれるはず」
2. 地元から全国へ
打ち合わせを終え、二人で事務所を出た。春風が心地よく、桜の香りが優しく鼻先をくすぐる。
「大和、全国ツアーって聞くと、ちょっと不安もある」
彩花は少し声のトーンを落とし、バッグのストラップをぎゅっと握りしめた。
「緊張する?」
「うん。でも、その緊張を越えた先に、大きな景色があるって信じてる。だから、大和も一緒にいてほしいんだ」
その言葉に、俺は改めて自分の決意を確かめるように頷いた。
「必ず、君の隣で世界を見せる。地元の小さなステージから、全国の大きな会場まで――約束するよ」
3. 準備の日々
数日後――
スタジオではコンサートのリハーサルが続いていた。バックバンドのサウンドチェック、ダンサー陣とのフォーメーション合わせ、そして俺は大型LEDスクリーンのプログラミングを最終調整している。
「大和、このカットイン、私の涙の表情をもうちょっとアップで出せない?」
彩花がモニタールームから声をかける。
「了解。2秒間だけズームアップ。コントラストも微調整したから、感情のディテールが伝わるはず」
俺はキーボードを叩き、プレビュー映像を再生した。確かに、彼女の目元がやわらかな光に包まれている。
リハ終盤――
「OK、今の感じで本番行こう!」
ディレクターの声がかかり、キャスト&クルー全員から拍手が起こる。俺はホッとした笑みを浮かべながら、彩花に向かってサムズアップを送った。
4. 新たな挑戦
夜――
ホテルのロビーで二人きりになったとき、彩花は小さなノートを取り出した。それは、ツアー中に訪れたい場所や、地元食材でできた料理リストが書かれた“思い出ノート”だった。
「大和、これ見て。次のツアー先でやってみたい企画、私が勝手に考えたの」
「“地方限定トークショー”とか、“特産品コラボグッズ”とか……」
俺は楽しそうにページをめくりながら、彼女のアイデアに頷いた。
「君の夢は、ステージの上だけじゃないんだな」
「うん。みんなと一緒に作るライブにしたいし、地元の良さも伝えたい。大和はどう?」
「もちろん、協力するよ。ツアー映像もドキュメンタリータッチにまとめて、ファンにも舞台裏を見せたい」
5. 二人の未来へ
ロビーの大きなガラス窓から、夜空に浮かぶ月が見える。俺と彩花は並んで立ち、その静かな光を共有した。
「大和、ありがとう」
彩花は照れくさそうに言い、俺の腕にそっと手を絡めた。
「こちらこそ、ありがとう。君がいるから、俺はここまで来られた」
俺は小声で応えながら、彼女の手を握り締める。
ツアー初日まで、あと三日――。
二人の物語はまだ始まったばかり。地元の桜が舞うこの街から、日本中へと広がるステージライトの向こう側に、新しい夢が待っている。
―― 「ステージライトの向こう側」第二幕、開幕間近。
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