パワーランチ

白雨/hakuu

サバディップホットサンド 1/3

パワーランチ。

”何もない、つまらない、むしろイライラが多い日常に少しだけの楽しみと少しだけの頑張るパワーを与えてくれる特別なランチ。”





ピピピ、ピピピ・・・と遠くから聞こえてくる。

ベットの中から無意識に手を伸ばしたのか、目覚まし時計を止めたカチッとした音で、目が覚めた。時計を見ると6:31と表示されていた。

私は、(今日からまた仕事か⋯)と思わずため息が出てしまった。



気怠い体を引きずりながら、1階のリビングに下りてカーテンを開ける。

眩しい光が、若干お酒の残った全身を心地よく照らす。

今日も休みなら良いのにと言う気持ちを打ち消すように、ケトルに水を入れ、テレビを付けた。



テンションが上がらない。

やる気が全くおきない。

だが働かなければいけない。

(兎に角、自分をご機嫌とって騙し騙し仕事せねば!)と奮い立たせた。




冷蔵庫の前に立ち、勢いよくドアを開ける。


「よし!今日はパワーランチはしよう!」


明るく言ってみたものの冷蔵庫の中に虚しく響く。



気を取り直して、冷蔵庫の中に目を配ると萎れた大葉があった。昨日、母と晩酌したとき、刺身に使った余りだ。まるで大葉が会社に行くのが面倒だと代弁しているかの様な萎れ加減だ。そう思ったら愛おしくなってしまった。



大葉を使って何か作ることにしたため、冷蔵庫に再び目を向け食材を探した。冷蔵庫の中にはヨーグルトと食パンがあった。ふとサバ缶があったことを思い出し、吊り戸棚を開けたら1缶残ってた。(サバ缶って健康にも良いし料理にも使い勝手良くて便利なのよね。今日の帰りに買ってストックしなきゃ)と頭の隅で考えつつ、鯖ディップサンドに決めた。私は、寝ぼけたまま、朝ごはんとお弁当の準備をはじめた。






キッチンの窓から朝日がキラキラと降り注いでいる。

今日も天気は良いらしい。

窓から外を眺めながら、初夏のピクニック気分でランチしたら気分上がるかもしれないとふと考えが浮かんだ。不思議なことに外で食べるご飯は普段より美味しく感じる。



会社は観光地にあり、歴史的建物、お洒落なカフェやお菓子店などが並ぶ通りが有名だ。運河や広場もあり、休日には大抵イベントが催されている。観光客をはじめ市民の憩いの場でもある。私は市民でも旅行のような非日常気分が味わえる空間だと思っている。



今週も始まったばかりだ。1日目から自分のデスクでご飯食べるのは気が滅入るだろう。1週間やる気が続かない可能性もある。外で非日常気分を味わいながら食べるのが最善の選択だと感じた。外で食べるなら工夫したほうが良い。キッチンカーで買ったみたいにお洒落にするのもありかもしれない。考えていたら少しずつ気分が上がってくるのが自分でもわかった。身体も仕事にモード入ってきて眠気も覚めて頭がクリアになってくる感じがした。(そうだ!お湯沸かしているの忘れてた。)私はコップにお湯を入れ白湯を飲みながら再び準備に取り掛かった。




まな板の上では刻んだ大葉の香りが鼻をくすぐる。

夏の始まりにはぴったりの匂いだ。暑さに慣れず疲れた気持ちを爽快な気持ちに引っ張ってくれるイメージだ。大葉はメインではないけどメインに負けない食材だと思う。



ぼーっとしてたら、お母さんの元気な声が耳に飛び込んできた。


「桜〜。うわぁ!今日も暑いって!最高28℃だって〜。」


目が覚めたらしい。スマホを片手に軽く伸びをしながらスタスタと台所に歩いてきた。朝が強いことに感心しながらも、仕事はじめで気分が上がらない私は若干の疲れを感じてしまう。ボサボサ頭のお母さんは、返事が欲しかった様で、私の目の前に立ち、続けて話し始めた。


「おはよう!桜!すごく良い匂いがする!朝ごはん?昼ごはん?」


私は刻んだ大葉をボールに入れつつ、


「おはよ⋯。良い匂いは味噌汁。朝ごはんね⋯。とりあえずお母さん、歯磨いておいでよ⋯。」


低いテンションで返事した。お母さんは、眉間皺寄せ、朝からテンション低い私に文句があると言わんばかりの顔で


「テンション低いね〜。わかってるわよ〜。で、昼ごはんは?」


と畳み掛けるように話してきた。

お母さんとのやり取りは面倒だが、朝から私の作るご飯に興味を持って楽しそうに話すお母さんを見ると、私まで作り甲斐を感じて嬉しさが声や顔にに出てしまう。カッコつけたくなり


「鯖ディップサンド。急に暑くなったからスタミナ付けようと思って。」


何となく適当な理由と共にお母さんの背中に伝えた。

7:30とシマエナガのキャラクターが時間をお知らせする声がテレビから聞こえた。朝ごはんを食べて会社に行く用意をする時間だと思い少し急いで行動した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る