第六装 『スキル獲得』
出会った場所から50mほど離れた場所、周りにはちらほら
ゴブリンとスライムの溜まり場、初心者にとっては絶好の狩場。
「いいか?絶対声出すなよ。お前のことがバレたらビビッて大騒ぎになるからな?」
「えーイヤじゃイヤじゃ!ワシだってテンション上げんと力は出んぞ?それに見てみろ、戦いに集中して周りのことなんか知る余裕もないじゃろ?」
「だからってなぁ……」
コハクは周りの様子をジッと観察する。
そう言われると皆鉄の剣や斧を振るのに必死で、目の前の魔物にしか注目していない。
んーまあいざとなったら腹話術って誤魔化せばいけるか。
よしダイジョーブ!
コハクは早速剣を取り出し、目の前のスライムに突進していった!
その怒涛の走り込み、スライムは振り返る暇もなく背中の隙を見せる!!!
「オラァ!貰ったァァァ!」
『ぐしょ』
しかし非力な力と鈍い刃のせいで、切断する前に止まってしまい。スライムの触手攻撃でおもっきしぶっ飛ばされてしまう!
「うげええ!!!」
アルマは吹っ飛ばされる主を見て非常に驚いた。琥珀色の髪と目、白い肌、その妙に自信満々な顔つき。そして一本の剣に超軽装。
見た目はかなりのツワモノ、実は強い系の実力者だと勝手に思っていた。
(こ……こやつ! マジで弱い系の男か!?パッケージ詐欺ではないか!?!?)
「おいコハクとやら!あんな弱そうなやつも倒せないのか?」
「う……うっせえ!毎日ここに潜っても全然成長しなかったんだよ!」
あちゃーと腕のパーツを動かし困り眉になるアルマ、これは相当ハードな戦いになりそうだ。
「しょうがないの……コハク、
「え?……わかったよ!」
ぴょんぴょんと跳ねながら向かってくるスライムに注視する、その単調で規則的な動きを読み取りコハクは次の一手を構える。
3回目の大きなジャンプの瞬間、コハクは左手を貫手の形にして思いっきり柔らかなボディへと突っ込んだ!
「ギュイイイ…………」
スライムはたちまち肉体を保てなくなり光のモヤを出しながら消滅した。
アルマの爪はかなりの鋭さを誇り、コレぐらいの魔物なら余裕で倒せるらしい。
左手のくせに、ずるいぞ!!!
コハクはほっと一息をつきそのモヤから出てきた小さな魔石を拾った。
「ガブ!」
「お……おい何して……」
突如魔石を左手の口でパクっと喰らったアルマ、理解できぬままその場に立ち尽くしてしまう。
せっかくの報酬が……今日の晩ごはんがァァァ!!!
≪魔力総量が増大しまシタ。≫
「ス……ステータス魔法?この表記は一体…………」
自動的に発動したステータスは通知を目の前に映し出す。
「ああ、まだお主には言ってなかったのうコハクとやら。
ワシは、『モノを喰らって強くなる』ことができる!!!
ちなみにお主のすていたすっちゅうものも少々改造させてもらった、ワシが喰らった物でどう強くなるか…………分かるようにな。」
「改造!?」
アルマがいじくったステータス魔法は、自動的にコハクに通知を送る便利なシステム報告のようになっていた!
コイツは俺のカラダをどこまで改造してしまうのだろうか……
「って言ってもよ、魔石が残らなかったらお金稼げねえじゃねえかよ!今日の晩飯どうすんだよ!!!」
「うるさい!ワシもお腹ぺこぺこなんじゃ!この……ぷろてくたあ…………じゃったかの? ずっと魔力を使い続けるから面倒なのじゃ、実体化すれば……浪費せんのじゃが。」
実体化…………そういえばさっきから力が抜けると思ったら、コイツがエネルギーを使いまくってたのか。
いくら力が増してもその問題の魔力が尽きたら意味ない、何か手は打てないものか…………
アルマは辛そうに息を切らす。
あれだけ大口を叩いているが元はと言えば俺の左腕、辛い気持ちは自ずと俺にも伝わってくる。
「なあアルマ、さっき魔石食ってたけどさ。他にも食えるの?」
「ん?……ああ…………莫大な魔力を持つものは今は食えないが……ツノだの毛皮だのステーキだの……」
「実体のあるものなら……食えるんだな。」
コハクはふと壁際に近づき、アルマを使って巨大な岩壁をぶん殴った!
『バラバラバラ……』
アルマは魔力を高圧凝縮させ、プロテクターの固さをキープしている。こんな岩壁など簡単に崩せるのだ。
コハクは砕いた岩壁から堕ちた大量の石をかき集めると、苦しそうに痙攣する左手を向けた。
「これなら凌げるんじゃないか?それなりに固いし、実態のあるもんにしちゃぁ完璧だろ?」
「ほう…………石を依り代に…………ちょっくらやって……みようかの……」
苦しそうに呟いたアルマは大きく口を変形させると、せんべいを砕くかのようにバリボリと石を食べて飲み込んだ。
途端に吊り上がった眉が降り、安堵したような表情になる。
「お……おお!力が、魔力の漏出が止まってきておる!!!」
「やっぱりな、あのゴーレムを見て気づいたんだ。
魔力の漏出を防ぐには、あんぐらいの密度のある物質に宿らせればいいんだよ!」
200gあたりだろうか……石を吸収していると、左腕が突然もぞもぞと動き始めた。
指から手、手首へと青い光は徐々に石に変わっていき頑丈なガントレットが生成される。
動かしてみるとやはり先ほどよりも力や魔力の伝導率が高い!
≪安山岩を吸収したことにより、魔力の漏出が消失。魔力効率と伝導率が上昇しまシタ。残り摂取量832gで新たな能力が得られ
アルマの映したステータスは、まるで解説者のように次々と情報を出していく。
……っていうか新たな能力!?なんだその魅力的な文章は!!!
「アルマ、この新たな力って……」
「ん?わひにもわがらんのお……今しょくじぢゅうだがらちょっと黙るのぢゃ。モグモグ……」
アルマはどうやら石の味を気に入ったようで、図らずも大量の石を捕食してくれている。周りの人が見れば左手に石を吸い込むパフォーマンスに見えるかもしれない。
これでひと稼ぎしてみるか!?…………
あっという間に1kgの安山岩をペロリと完食、大食いタレントも驚く驚異の速さでげふっと満足気だ。
「ほれ、喰ったぞ。随分とご機嫌な飯じゃったの、歯が痛い!」
「そりゃ石ですからねぇ……」
コハクはステータスの告知を待ち構え、腰を入れる。まるでサプライズの入ったボックスを開ける子供のように、アルマの報告を待つのだ。
「うおお……なんだか力が……力が漲ってきよる!!!」
「来たか!来たのか!?待ってましたよォォォ!!!」
「来る、ああ来るくるクルぅぅぅ///」
センシティブな声を発したアルマに、便乗したコハクは恥ずかしくなるが仕方ない。力のためには、犠牲もつきものなのだ。
『ピコ!』
ステータス魔法が発動する、電子音の合図。
アルマとコハクはそれをじっと見つめた。
≪安山岩の吸収により、コモンスキル『肉体硬化』を獲得しまシタ。≫
≪安山岩の吸収量が一定を超えたため、装備に『石拳』を追加いたしまシタ。≫
(コモンスキル?……スキルだって!?)
コハクは慌てて全体表を見る。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
行術:無し
【
装備
・朽ちたブロンドソード「ナマクラ」
・石拳
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「増えて……る。スキルが……力が……増えたんだぁ!!!」
コハクはうるうると目を輝かせ石のガントレットを、自分の左腕を抱きしめる!
あれだけ望んで、毎日毎日魔物を倒して、それでも強くなれなくて。
諦めかけたその時舞い込んできた幸運、喋る幸運のおかげで新たな夜明けを迎えたのだ!
「やめ!やめるのじゃコハク!……ああおぬしの涙でべちょべちょじゃ気持ち悪ッ!!!」
「うおお……もうお前を離さないぞアルマぁ…………」
「ぐへえええ…………」
コハクとアルマはまるで夫婦漫才のようなやりとりを続ける。
この日
実はその正体がコハクだということに誰も気づかないのは放っておくとしよう…………
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます