【ASMR】ダウナー系だった幼なじみが、なぜか積極的に癒やそうとしてくる

雪福

【トラック1 予備校の帰りに ―あのとき離した手―】

//SE チャイムの音

//SE 下校時刻のざわめき


(テンションが低そうで、それでいてうれしそうな声)

「……ん。出てきた」


「予備校、今日もおつかれさま」


「……たまたま通りかかったから、待ってただけ」


「……そんな顔しないで。怒ってるわけじゃない。わたしがずいぶん待ったと思っているんでしょう?」


「……たしかにけっこう待ったけど、別に問題ない」


「……問題ないから」


「……帰ろう」


//SE セミの声


「……そうだね。夜でも暑い」


「……だからもっと、私にくっついて」


//SE 体を寄せあう音


(左耳に)

「私、体温低いから」


「ひんやりしているでしょう」


「……そんなに低くない?」


「……そなはずない。気のせい」


//SE 夜の虫の声


「……道、こっち」


「……少し遠回りだけど、こっちのほうが涼しい」


「木がたくさんあるから、静かだし」


//SE そよ風


「風、気持ちいいでしょう」


「……きみは、涼しくない? 少し汗かいてる」


「……肩も固い」


//SE 衣擦れの音


「……がちがちになってる。マッサージしようか?」


「そう? 遠慮しなくていいのに」


「……きみ、寝てないでしょう? 顔が疲れてる」


「朝も遅刻せずに登校してるし、夜は予備校」


「それから深夜まで、ずっと勉強してる」


「なんで知ってるって……見えるから」


「……私の部屋から、きみの家の窓」


「もっと早く寝て」


「……じゃないと、あのときみたいにまた倒れる」


「……がんばりかたを間違えると、全部台なしになる」


「きみはそれを、知ってるはず」


「私も……知ってる」


「……ウザい?」


「……別に、ウザくてもいい。きみがまた倒れたら、困る」


「だから……今回は、ちゃんと見てる」


「……ウザくない? 本当に?」


「……よかった」


//SE 体を寄せる音


「……当たってる?」


「……風のこと? 寒くなった?」


「じゃあもっとくっつかないと」


「私、本当はけっこう体温、高いから」


「……きみの体、熱い」


「熱中症かもしれない。待ってて。冷たいもの買ってくる」


//SE 駆けていく足音


(少し乱れた呼吸)

「これ、飲んで」


//SE 喉を鳴らして麦茶を飲む


「もっと飲んで。水分は大事。熱中症は甘く見ちゃだめ。本人は大丈夫と思っていても、体は悲鳴を上げているもの」


//SE 喉を鳴らして麦茶を飲む


「口元、濡れちゃったね。拭いてあげる」


//SE ハンカチで口元を拭う


「……おかしい。顔がまた赤くなった」


「ハンディ扇風機、持ってる」


「……あれ? スイッチが入らない……」


「直せるの? ……すごい。動いた」


「『ただスイッチをスライドさせただけ』? そうなの?」


「……買ったけど、使ってない。自分用じゃないから」


「そう。きみのため」


「私、暑いの苦手じゃないし」


「……汗をかいてる? 私?」


//SE 衣擦れの音


「……本当にかいてる」


「麦茶? 私は別に……」


「さっき私が言った『水分は大事』のセリフ、よく覚えてるね……」


「たしかに本人は、大丈夫だと思いがちだけど」


「……私がきみを心配してるのに。きみはいつも、私を心配してくれる……」


(喉を鳴らして麦茶を飲む)

「……いつもよりも、おいしい気がする」


「え? もっと? なんで?」


「……顔がさっきよりも赤い? 私の?」


(小声で)

「……熱中症のせいじゃない」


「……なんでもないし」


(喉を鳴らして麦茶を飲む)

「……飲んだ。帰ろう」


//SE そよ風


「あの公園……」


「……うん。なつかしい」


「……いいの? 勉強の時間、減っちゃうけど」


「……じゃあ、寄る」


//SE ベンチに座る音

//SE 風で木の葉が揺れる音


「……涼しい」


「……このベンチ、きみは覚えてる?」


「きみが小さいころ、夏になるとよくここで寝てた」


「……そうだね。ここだけじゃなくて、いろんなところで寝てた」


(むっとして)

「起こすとすごく不機嫌になるから、私ずっとひまだった」


(ふふっと笑って)

「たしかに。いま私が不機嫌になっちゃった」


「……また顔、赤い。目もうるんでる」


「……ちょっと、手貸して」


//SE 衣擦れの音


「じっとしてて。熱、測る」


「……普通はおでこ?」


「……セクハラ」


(ふふっと笑って)

「冗談」


「手、熱いね」


「私の手、冷たいでしょう」


「冬はつらいし、冷房が効いてる夏もつらいけど」


「……初めて役に立った」


//SE きゅっと手を握る音


「きみの手、いまはもう私より大きいね」


「……私、手大きいから、ちょっとうれしい」


「……小学生のとき、指をつないで帰ったの覚えてる?」


「どっちが先に放すか、競争してた」


「……きみのほうが先だった」


「『汗かいてて気持ち悪い』って言われて、けっこうショックだった」


(ふふっと笑う)

「ごめん。今日は昔のうらみが多いね」


「……いまなら、もう一度、つなげる?」


//SE きゅっと手を握る音


(手をつながれて、驚いて)

「……っ!」


「……また離されたら、私ショックで死ぬかも」


//SE ベンチから立ち上がる音


「……うん。きみの家、すぐそこだもんね」


//SE 歩きだす音

//SE そよ風


(小声で)

「……本当に、すぐそこ。あの角を曲がったら、もう……」


「……あ」


//SE バッグの中身を探る音


「きみがいつも食べてるグミ、買ってある」


「好きな味、覚えてたから」


「……ほら。ちゃんと立ち止まって食べて」


//SE 足音が止まる


「甘いものは、脳の栄養になるし。あ~ん」


//SE 咀嚼音


「……おいしい?」


「よかった。顔色もよくなった」


「……もう一個、食べる?」


「……そう。うん。じゃあ、帰ろうか」


//SE 歩きだす音


「……着いたね。手、つないでてくれてありがとう」


「……今日は、いっしょに帰れてよかった」


「……それじゃ、またね」


//SE 玄関ドアの開閉音

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