第2話
第2話:タイムマシンは本当にあるらしい
「……タイムマシン?」
俺の声が震えていたのは、驚きのせいか、期待のせいか、自分でもわからなかった。
ひよりがテーブルに置いた銀色の腕時計。
一見するとただのデジタル腕時計にしか見えないが、液晶部分には普通じゃない表示があった。
【現在時刻:2025/08/05 14:20】
【リープ予約:設定なし】
【面接時刻へ:◯】
「……なんだこれ」
「ね、驚いた? これ、ある人からもらったの」
ひよりはまるでガチャポンの戦利品でも見せるようなノリで話すけど、こっちはついていけない。
「いやいやいや……テレビのドッキリとかじゃないよな?」
「うん。ちがう。ドッキリならカメラがあるでしょ? それにね、私、一度使ったことあるから」
「え?」
「今日、あなたと面接することになるって知って、少しだけ“リハーサル”したの」
「……マジで?」
「うん。そしたら、昨日までの時間にちゃんと戻れて、未来の記憶もあったまま。もう一度、同じ瞬間を過ごせるの」
信じられない。
けれど、彼女の目は真剣だった。演技ではない。
画面越しの“芸能人”ではなく、今ここにいる“幼馴染”の顔だった。
「それって……」
「晴斗が、また面接で後悔したら、次はもっといい受け答えできるってこと」
「それ、就活無敵じゃん……」
「そう。でも、ひとつだけルールがあるの」
彼女が手首にタイムマシンをはめると、画面が光った。
「この装置は、“面接時刻の直前”にしか戻れないの。
つまり、好きな時間に戻れるわけじゃない。たった数十分前の、あの瞬間にだけ」
「……なるほど。限定タイムリープか」
「うん。しかも、“一日一回”。体力、めっちゃ使うし」
彼女が大きく息をついた。どうやら、リープにはそれなりの負荷もあるようだ。
「でも、使い方次第では――運命を変えられる」
その言葉に、俺の中のなにかがざわついた。
変えられる、か。
俺のこれまでの人生。
夢を途中で諦めた大学時代。
営業職で成果を出せず、ただ“普通”に働き続けた日々。
何も変えられず、ただ年を重ねただけの時間。
「ねえ、晴斗。やり直してみたいこと、ある?」
「…………」
あるに決まってる。
あの日、告白できなかったこと。
あの夏、君と一緒に星を見に行けなかったこと。
「……あるよ」
そう言った俺に、ひよりは微笑んだ。
昔と変わらない、優しい、あの笑顔で。
「なら、一緒にやり直そう」
彼女は俺の手を取った。
「次の面接、あなたはもっと上手くできる。私が見ててあげるから」
「でも……何で、そこまでしてくれるんだ?」
「そんなの……決まってるじゃない」
小さく、彼女は呟いた。
「だって――初恋の人だもん」
心臓が跳ねた。
まさか、そんな言葉を彼女の口から聞くとは。
「……ひより」
そのとき、タイムマシンの画面が赤く点滅した。
【再リープ可能まで:00:00:03】
【2秒後に前回の面接直前へリープします】
「ちょっ、待って、今俺が!?」
「うん。頑張って。今度こそ、自信を持って笑って!」
「え、えええっっ――」
眩しい光に包まれて、俺の意識は引きずられるようにして飛んだ。
――次の瞬間、気がつけば俺は会議室の前に立っていた。
腕時計の表示は、たった今、面接室のドアをノックする2分前。
本当に……戻ってきた。
手にはさっきと同じ履歴書。
緊張で手汗も同じだ。だが、今は違う。俺には“記憶”がある。彼女の笑顔も、あの言葉も。
「よし……やってやろうじゃないか」
ノックの音が、廊下に響いた。
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