無知な罪
女同士とはいえ、神のスキルを有した彼女たちの死闘は凄まじくお互いがボロボロの状態となり、尚今も牙を剥いて睨み合っている。
騎士団とそのリーダーたちが止めに入らなかければ、どちらか一方が死んでいた。
「いっ!」
「ほら、じっとして。」
ある家族の屋敷にいる医者に怪我を診てもらい、治してもらっていた。
そうこの家から私の全ての始まりとなる。
「全く・・・・アーシアもうそうだけど、ジュリアちゃんも元気ね。
今時の子はみんなそんな感じかしら?」
「あっ!いえっ、つぅ!」
傷口が染みる。
「ただ変わらないのは1人の男を取り合って。ってことかしら。それはそれで青春ね。」
「いやぁ・・・そんな」
「ともかく貴女たちは国の宝にして力を持つ者なんだから、下手に死なれても困るってこと。いい?」
「・・・はい。」
私はまるでお母さんに怒られたかのように萎縮してしまう。
「フフ、良い子ね。」
ヨシヨシとしてくれる優しさに心を許してしまう。
「ねえ、彼に会いたい?」
「!?は、はい!」
「そう・・・着いてきて。」
医者は私を引き連れて治療室を出ていく。そのままコツコツと長い廊下と豪華な階段を上がって行き、ある一室へと辿り着く。
そして扉を開けると、まるで物置のようなぐちゃぐちゃな部屋であった。
「こ、これは・・・・」
「そうね。彼は妾の子、つまり貴族だけど生まれた母親の身分に問題があった。ってことかしら。はあ、くだらない。」
医者がしれっと驚愕の真実を教えてくれたことに私は驚きを隠せない。
彼が貴族であったこと。そしてあの謎の力を持っており、その力は神をも滅ぼす力であったということ。
「こっちよ。」
奥へと物をかぎ分けて進んでいくと、そこには彼がひっそりとベットで睡眠をとっていた。
「っっ!」
咄嗟に私は本能的に彼は抱き付いていた。
「まあ。」
良かった。生きてる。彼の胸から確かな生命音がトクントクンと鳴り響く。
よりその音が私を安堵させる。
「何故ここに私以外の異物がいるのかな?」
「・・・・」
「アーシア・・・様。」
「ご苦労、キアンヌ。貴女の適切な治療と配慮のおかげで兄様は無事でいられる。本当に心から感謝している。
けど、そこの女はいただけない。ソイツのせいで今回兄様がこんな目に。」
私は睨みつける。彼女も睨みつける。
だが私たちは動かない。動けない。彼の前でもあり、お世話になったキアンヌの手前、余計な騒ぎは起こさない。
「兄様のことは?」
「まだ出自だけ。」
「そう、それじゃあ特別に教えてあげる下民の敗戦国さん。」
「あ?」
「兄様のスキルは『極星』というただ一つの究極にして最強の力で、その宿主よ。」
『極星』というワードは聞いたことがなかった。ただ分かることは神という領域の問題ではなく、魔神でも聖霊でもないということ。
「『極星』正確にはこの世ならざるこの空の上にある天体から与えられた。とされる力よ。」
天体、かつてこの世界の上には摩訶不思議な星々が存在しており、この世界同様に様々な生態と世界が存在していると仮説を説いた人がいた。
ただ事実確認ができないため、有耶無耶になってしまったけど。
「そう、兄様の力はその有耶無耶の力を1つ持ってしまったがゆえに、この家に縛られることになったの。
妾となった母親のため、彼はこの家で暮らす事を選んだ。そしてこの家は彼の力を利用しようとするべく、彼をこの家に縛り付け、利用する事で滞在を許可したの。
でも彼が迫害される事実は変わらない。異端であり、その力もまた異端・・・・でもそんな私は兄様に救われた。
だから私の一生は兄様のためにあるの。私がこの家の当主となって兄様を救う・・・その筈だったのにっ・・・」
私は改めて振り返る。本当に私が守られて良かったのかな?と。
彼は私と出会ったその時から守ってくれていた。差別され迫害されていた私たち家族を彼は身を挺して周りを説得して、私たちを救ってくれた。
そして今この時も彼は再び私を救ってくれた。そんな彼に惚れないのは無理であって、彼を救いたい。と思うのは必然である。
「悪いが、私も彼を救いたい。」
「・・・・正気?説明したのはね。『邪魔だからどっかいけ。』って意味なんだけど?
バカには分からないかしら?」
「悪いね、バカだから分かんねえっての。」
私は口調が自然と彼の普段と重なっていく。
「へぇ・・・やっぱアンタ先に殺した方がいいと思う。」
「奇遇だな、私もそう思ったよ。ここにいても彼は絶対に幸せにはならない。」
2人は再び殺気全開の戦闘モードになりかけるも。
「やめんか!」
ゴン!ゴン!と2人はキアンヌから拳骨をもらってしまう。
「いっっっっー!」
「いでぇ・・・・」
こうして二次災害は防がれたのであった。
そしてジュリアは教会のお誘いを断り、軍へと自ら志願した。学業を専攻し、軍としての訓練も同時に開始しする。彼女は学業で彼の呪いを浄化する方法を探す傍で軍で力をつけていく。
ジュリアとは別に、マグイは魔法研究科として魔法師として学業を専攻していく。
そしてカイは冒険者として活動すべく、冒険における必要な知識を自力で冒険を通して学習する。
シシリーは聖騎士として活動すべく、騎士学院へ入学し、学業と共に騎士として訓練を開始する。
妹のアーシアは近衛騎士団入り約束されており、騎士学院の主席として活動している。
そんな各々が進むべき道とスキルの導きに従い、歩き続けていく。
そんなジュリアは軍の特殊部隊『ベリアル』という部隊に配属なった。
『ベリアル』帝国のヨゴレ仕事や暗殺といった過激な任務をこなす、帝国の裏近衛隊である。
彼女は敢えてそこへ自ら志願して入団した。理由は裏でしか知り得ない情報を任務などを通して得るため。
逆にアーシアは正式な神官と解呪師を呼び寄せるため、自身の崇高さと名声を各地で轟かせることで彼の呪いを解くヒントを得ようとしていた。
そう、2人とも各々が違う形で叶えようと行動していた。それはカイたちもそうである。
「先生、今日もお邪魔してもいいですか?」
キアンヌは成長したジュリアからまたしても任務帰りの立ち寄りで、寄れる際は彼の元へ訪れていた。
「はあ、貴女は許可はいらないよ。どうせ今もこっそり侵入してることだろうし。
けど、無理矢理に起こしたりはしないでよ。」
「はい、ありがとうございます。」
ジュリアはそのまま屋敷へ潜入し、彼の元へと向かう。
普段ならアーシアが守護しているところではあるが、近衛騎士団は王族の元が守護領域のため簡単には離れられない。特に第一騎士団長となってしまった彼女は尚のこと離れられない。
「おはよう、昨日ぶりだな。」
私は改めて彼を見る。寝ている姿もイケメン過ぎて毎回惚れています。
「今日も今日でさ。」
私は彼に話し始める。届いているのか分からない。でも彼に伝えたい。彼のお陰で今の私がある。と。
だがそんな日々は長くは続かない。
私もアーシアも、もう間に合わなかった。
ある時、ベリアルの情報網からその彼を抹殺せよ。と指示が入っていた。
理由は彼の持つ『極星』は異端にして非道とされており、その力が暴走する前に処分することとしていた。
私は当然その任務から外されていた。理由は私情だ。
だから私は私で独自の情報網からこの事実を知った。
「殺す。」
ただ一言、それだけ残して私はすぐさまその場から消えた。
男が1人寝静まる夜、物置の部屋は不自然と鍵が空いている。まるで意図的に誰かが空けておいたかのように。そしてベリアルの暗殺隊が5人彼を囲う。一思いに抹殺するため。
そして1人が手をかけようとした途端、その手がブチっ!と横から引きちぎられる。
「ぬぅぁあぁぁぁがああぁ!」
血飛沫が腕から舞って行く。そして今度は首をグッシャリとへし折った。そのまま倒れた男の頭を私は踏み潰した。
それを目撃したベリアルの兵士たちは彼女、ジュリアを殺そうと本能から動く。
だが『神体』の彼女からしたらその動きがスローモーションで見える。
両拳で2人の顔面を貫き、脳天をぶち撒けさせた。そして手を引き抜き、同時に次の短剣を何度か避け、一気に短剣を投げた相手へ近づき、手刀で1人の首を綺麗にスパーン!跳ね飛ばし、首からの返り血を浴びる。
そして撤退しようと立ち去ろうとする者の首から脊椎をグッショ!と引っこ抜く。
こうして5人のベリアル兵はものの見事に瞬殺された。同僚を殺した筈だが、彼女の目は酷く凍てついている。
「・・・・ごめん。ちょっと揺れるけど私に任せて。絶対元に戻すからさ。」
私は彼を抱えて飛ぶ。赤い月の夜空を飛んでいく。ひたすらに。そしてある教会裏の墓地へと辿り着く。
「この・・・・あれ?結構使える?」
私は目についた棺桶から教会内を探し回る。そしてやや高そうな棺桶に彼を収納する。マットが付いているので、痛み等はないはず。多分。
「意外と軽いのな。はは、良かったよ。」
私は背負った棺桶をそのまま帝国から出て行くことを決意した。
自分の仮住まいの宿で旅路に大事なセットを用意していたため、それを持って夜を駆け抜けた。関所も普段ベリアル用の抜け道を利用して突破して行く。
まだ5人が死んだ。と報告されるの先であり抜けるなら今しかない。
「よっと!」
抜け道を通り越えてすぐさま森へと入っていった。こうして2人は常世の闇へと消え去ってしまう。
そんなアーシア
「・・・はぁ!?・・・・ざっけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
1人帝国の王城内で憤慨し、気持ちが抑えられないのかその辺のものをガッシャァァァン!と勢い任せに次々と破壊してしまっていた。
「クソ!クソ!どうしてアイツはいつもいつも!・・・・・手配書を出せ。あの女をだ・・・・・生死は問わない、いやむしろ殺せ!」
アーシアは部下へそう告げ、部屋を後にする。
「クソがっ!
アイツは私が必ず殺す、絶対に殺す。兄様をまたしても不幸な道へと連れていきやがった!」
彼女は金色の髪に綺麗なロングヘアーではあるが、今は怒りで赤色に揺れ動いているように見えていた。
「あの女は絶対に殺す。100回殺しても足りない、惨めに殺してやる。」
アーシアの目には彼女の手配書が握られていた。
だが密かにもう一つ、彼シンラ・タズマリンの名前も同時に手配されていた。
このシンラが作ってしまった彼女や彼らの歪な関係がこれからの激動の歴史と世界の秘密へ深く関わっていくことになるとは誰も知るよしもない。
そんな彼は今、夢を見ることすら許されないただ無の境地で1人暗闇に閉じ込められている。
いずれくる目覚めの時まで。
そしてジュリア・プロテクタンというベリアル時に与えられた名を持つ彼女は夜が明けたのと同時に目を覚ます。
「ふぅぁぁぁぁぁ・・・おはよう。」
棺桶からは依然返答はない。
「なんか変なこと思い出したな・・・飯にするか。」
私は棺桶を背負い、野営した箇所から半径数100メートル内で周囲を目視で確認した所、川を見つけた。
川で魚を取るのは今やこの能力に恵まれたからか難しくない。むしろ、天職では?と思うぐらいサバイバル能力と相性がいいぐらいである。
火おこしの力加減も一瞬、無論魚を取るための動体視力もある。獣や狩をするのにも十分過ぎる。
能力には恵まれているが、私自身が不甲斐ないのか、それともこうなる運命だったのか?結果論ではあるが、どこかこう・・・もうちょっと上手くやれたのでは?
「ま、今は今で幸せだからいいけどさ。」
川でそっと再び下ろした棺桶を見つめ、彼女は川へ魚を取りに向かう。
「かってぇ!」
川で取れた魚は決して良質とは言い難い歯応えである。
こんな帝国ハズレの地域であれば、普段帝国に流れる輸入品と比べれば天と地の差である。
「私としては別にこっちでもいいけどさ。シンラが目を覚ましてくれればなおのこと・・かな。
聞きたいことは山ほどあるけど、そんなことより元気な姿を見たいし、今は前に進むしかねえか。」
バリバリと歯応えの悪い川魚を骨まで食した後、焚き火を消化し、再び棺桶を背負い立ち上がる。
「出てくる前に解呪方法について調べておいて良かったな・・・ただ目的地がマリアベールとはなぁ・・・・私は帝国人じゃないからまだしもだが。」
マリアベールという国は太古から聖なる力を主としている法治国家であり、聖典などあらゆる神への情報や信仰が募っている帝国とは真反対の国家体制であり、犬猿の仲とも言える立ち位置であった。
神に与えらるスキルは国家の中で多く生まれる傾向にあり、マリアベールでは常に優秀者が募っている。
正に神の僕とも言われている。
「帝国は反宗教だから色々と対立関係だし、入るまでの手続きがまた手間なんだよな。鑑定算定も避けたいところだし。特にシンラのは絶対マズイ。」
彼女は悩みつつも追われる身であるため、決して歩くのを止める訳にはいかない。
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