第13話
翌朝、迷った末にエリアマネージャーの山之内へメールを送ることにした。休日ではあるが、トラブルの報告は少しでも早い方がいいだろうと考えたのだ。
生徒とアルバイト講師が連絡をとり合っているらしいということを、簡潔に記載したメールを送信した。
きっと明日の午前中には山之内から電話がかかってくるにちがいない。恭弥へ確認をし、朱里の保護者にも連絡を入れ、双方に事情を聴いて……。
先日行った朱里の母親との面談を思い出し、どのように説明するのか考えただけでも背筋が凍る。
これから起こるであろうこと、しなければならないことを想像するだけで、眩暈がしそうだった。
パソコンの前から離れ、どさりとベッドに倒れ込む。
あぁ、明日行きたくないな……。
そんな呟きと一緒に、深い深いため息が漏れた。
昨晩はもやもやとした気持ちのまま、ろくに眠れず朝を迎えた。
ひとまず顔を洗い、朝食をとっていると社用携帯が鳴った。発信元は案の定山之内だ。
「はい、速水です」
「おはよう。山之内です」
「おはようございます」
いつになく沈んだ声に、彩音の気分はどんと暗くなる。
「メールの件だけど」
「……はい」
「実は昨日、本社にこの件でクレームの電話が入っていたそうだ。相当お怒りだったみたいで、今日塾に行くと言っているらしい」
「そうなんですか……」
事態は彩音が想像していたより深刻な状況になっているようだ。
「先方は一時からの面談を希望されてるらしい。一緒に対応するから、十二時に行っていいかな。細かいこと、事前に確認しておきたいから」
「ありがとうございます。大丈夫です」
「じゃあ、のちほど」
プー、プーと通話終了を示す電子音が虚しく耳に響いた。
家にいても気分が沈んでしまうので、早々に家を出た。塾に到着したのは十一時すぎだった。
自席につき、道中のコンビニで買ったおにぎり味わうでもなく口に押し込む。
十二時になる少し前に、山之内がやって来た。
「お疲れ」
「お疲れ様です」
「いやー、災難だな」
「……すみません。私がちゃんと監督してなかったばっかりに」
「いやいや、こういうのは正直防ぎきれないからなぁ。運が悪かったんだよ」
速水が頑張ってるのはわかってるし、と労りを含んだ山之内の言葉に、それだけで彩音は涙が出そうになった。
「で、連絡とってる講師って、まだ入ったばっかりなんだよな」
「そうです。夏ぐらいに」
「大学どこだっけ」
「
「ほ~、これは秀才だ」
「すごいですよね」
「それだけ頭が良かったら、中学生となんかあったらマズいこともわかりそうだけどな」
ううん、と山之内は唸った。
それからこれまでの授業での様子や、二人の雰囲気を話す。と言っても、颯真に聞くまでそういう目で見ていなかった彩音が話せることはほとんどなかった。
「実は先週、他のアルバイトの子から二人が連絡をとっていそうだって報告を受けてまして」
「えっ! じゃあ、それぞれ当事者に確認済みってこと?」
彩音は力なく首を振る。
「それが、その報告を受けた翌日から二人とも体調不良でお休みしたんです。次に会ったときに、と思っていたら、そのまま二人とも休みが続いて……」
本当にすみません、と彩音は頭を下げた。
「そうかぁ~……。ちょっとよくない展開だな」
可能性が浮上した時点で、早急に動くべきだった。まさかこんな事態になるとは思っていなかった、というのは言い訳にしかならない。彩音は唇を嚙み締めた。
「とりあえず、親御さんの話を聞いてみるしかないな」
時刻は、十二時まであと十分というところまで迫っていた。
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