第37話
「ほんっと―に! 申し訳ありませんでした!」
一旦ゲームを終えた俺は、久留美と如月を伴って多目的室の端っこに掃けると、対戦相手の木村から開口一番、全力の謝罪を受けた。
その頭を下げる勢いは尋常じゃなく、久留美と如月が若干ひいていた。
「まさかウチのOBで、しかも千種さんの兄貴……いや! お兄さんだったなんて」
「うん、まぁ気にしてないから良いよ。それにOBつっても、所詮2軍だったしな」
2軍で終わった兄なんて久留美も話したくねぇだろ。
「そんなとんでもない。レギュラーの先輩たちから千種先輩は、練習で自分たちの苦手な局面作って練習させてくれたり、守備錬も合わせてくれるから為になったって! あ、でも苦手なとこばっかやらされるから1on1はできればやりたくないって……」
「どっちだよ!?」
上げてから落とすなよ。
「というかセンパイ。2軍の後輩相手にそんなことしてたんですか?」
「いや、監督から後輩連中の苦手なとこ徹底的に攻めてやれって」
「お兄ちゃんの趣味は人間観察だもんね」
「ソレ、友達いないだけじゃ……」
ねぇ、そろそろ俺をディスるの止めない?
そんな俺の願いが通じたのか、スタッフの人たちと協議していた菊ちゃんが、こっちにきた。
「千種先輩ウチのクラス……スタッフが申し訳ありません」
「あぁ別に良いよ。後輩と遊べたしな」
「それで先輩のスコアですけど、他言無用が条件で……先輩を今日と総合の1位決定にしようかと」
「え、マジで?」
他言無用といえどアリなのかソレ。
「はい……担任の先生ともお話して決めたことですので」
「先生まで話に入って来たならそれで良いけど」
幾ら俺が卒業生といえど、先生も入って来られると口は出せない。
話はこれで終わった……と、思ったら、菊ちゃんが久留美を振り向いてにこやかに笑う。
「それにしてもさっすが久留美ちゃんだね。お兄さんのおかげで私たちのグループの勝ち確定だよ!」
「勝ち? 確定?」
「えーっと……」
何の話だ? 俺のスコアの話ではない。
目で問うと、我が妹は全力で視線を逸らせた。
コイツ……なーんか、隠してやがるな。
**********
「クラスのグループごとに推薦した人の記録で裏ランキング作って、1位だったグループに打ち上げでデザートだぁ?」
「え、えへへへ。さっすがお兄ちゃん! 妹の期待に応えてくれる兄の鏡!」
「このバカ……」
多目的ホールから離れて校舎を歩く俺たち3人は、次の目的地を目指す道すがら、久留美の魂胆を聞き……落胆した。
コイツ、自分のクラスの出し物に参加させた挙句、参加者景品とクラスの賭け事の両取りを企んでやがったのか。
我が妹ながら恐ろしい。
「ま、まぁまぁ……お兄ちゃんにはマイナス要素ないしさっ」
「久留美ちゃんってこんなに腹ぐ……策士だったんだ……」
「ち、違うんです! 澪先輩っ」
「な? お前ら似てるだろ。どっちも八方美人なんだよ」
「「えへへへ、美人だなんて」」
2人顔を見合わせてフニャりと笑う。
まったくコイツらは……。
「あ、ほら見えてきたよ――――澪先輩のクラス!」
と、久留美が指さした教室の前には少しだが列ができていた。
たしか聞いてた話だと飲食系だったはず。
時間は11時を少し回ったところ。昼の込み時前に入っておいた方が良いという判断だ。
「お兄ちゃん、驚くと思うよ?」
「そりゃ楽しみだなー」
「あはは……そんな期待しないでくださいね」
話しながら列の最後尾に並ぶ。
ちょうど1組出て行くところらしい。
「行ってらっしゃいませー、ご主人様」
ん、このセリフはもしや?
まさかと思って、外から窓越しに教室を除くと……。
中には白と黒のフリフリの洋服を着た生徒たちが、客たちに給仕をしていた。
**********
――――メイド喫茶。
文化祭では定番の出し物の1つだ。
カフェや飲食店よりひと手間加えた、いわゆるコンセプトカフェの方が人気が高いのは、そうした方が映えるからだろう。
「いらっしゃいませーご主人様ー。3名様ですね」
「あー、はい」
今はまだ繁忙期ではないらしく、案内された教室の中は落ち着いていた。
席こそ満席であるが、全テーブル給仕を終えていて、暇を持てました
あと気になることが1つ。
俺はこのメイドカフェのスタッフの一員であるはずの、如月に問いかける。
「なぁ如月1つ、いいか?」
「なんです?」
「その……男もメイド、なんだな……」
もう1度黒板の方を見てみる。
ガタイの良い男子生徒が胸の前でハートを作ってポーズを取っていた。黒のミニスカートから伸びた、ガチムチの毛むくじゃらの足が目に毒だ。嬉しくない意味で。
「やっぱ気になりますよねー……」と、苦笑いをしながら如月が頬を掻く。
むしろ気にならない方が無理だろ。
「えーっとですね……最初は執事、メイドカフェの案だったんですけどぉ。ドンキになかったんですよね」
「シンプルに用意できなかったのか」
「えぇ。でも男子たちは女子のメイド姿みたいからって女子と言い争った結果、小道具の準備に、買い出し、あげく自分たちも着るって……」
「押し切ったのか……」
コクリと如月が力なく頷いた。
うん、まぁ気持ちはわかる。男子諸君の。
メイドってロマンだよな。特に気になる女子のメイド姿を合法的に拝めるなんて、文化祭くらいでしかありえないんだから。
「つーことは、如月も着るのか? メイド服」
「それがメイド服の数が少ししかなくて……」
「あははっ。お兄ちゃんざんねーん」
言い淀んだ如月の代わりに答えたのは、何故か久留美だった。
「澪先輩は昨日着たから、もう今日は着ないんだよ!」
「なん……だと……」
「澪先輩がメイド服着ると行列ができてお店が回るらなくなるからって、昨日の生徒だけの時のシフトにしてもらったんだって。ですよね!」
「久留美ちゃん良く知ってるね……」
「かくいうアタシも、あの手この手で整理券を手に入れた組ですからぁ」
つまり如月のメイド姿を見ることは叶わないのか……。
非常に残念だ。好きな女子のメイド服、それも如月レベルの可愛い女子のを見たくない奴なんているわけがない。
「そこまで落ち込まなくても……」
「見たい? お兄ちゃん、澪先輩のメイド服」
「見れるのか!?」
「え、久留美ちゃん! もしかして……っ」
驚く俺と如月の視線を十分に集めた如月が持ち出したのは、高校入学祝いと共に買ってもらったスマホ。
まさか……。
「このスマホの中にアタシと澪先輩の2ショットチェキがありまーす」
「さすが久留美だ……」
「えーっとね、たしか……あ!」
「はい、ぼっしゅー」
と、写真フォルダを開いていた久留美のスマホを如月が取り上げた。
「また今度一緒に写真撮ってあげるから、ね?」
「……ごめんねお兄ちゃん」
その魅惑的な誘いに我が妹は、あっけなく屈した。
返してもらったスマホを俺から守る様に抱きかかえる久留美。完全に俺の敵になったようだ。
唯一の希望も果て、結局見れず終いか……。
「あの、センパイ……そんなに見たいんですか?」
「そりゃな」
「そ、そうですか……ふーん」
如月が何か聞いてきた気がするが、落胆し絶望に明け暮れた俺は、それが何を訊いて来たのかよく覚えていなかった。
【あとがき】
拙作をお読み頂きありがとうございます。
面白そう、続きを読んでみたいと思って頂ければ
非常に励みになります!
現在、本作はカクヨムコン11に参加中。よろしければ評価のほどして頂ければ、狂喜乱舞します。
明日は19時40分ごろに投稿予定です!
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