第24話
「今日は学校休みなのか?」
と、俺は同居中の後輩へと問うた。
何の変哲もない平日の午前。
部屋で唯一時刻を刻む、安物のデジタル時計は10時前を示している。
今日の俺の予定は11時開講の2コマから大学。朝は比較的ゆっくりしていけるのだが、何故か今日は如月も家に残っていたのだ。
遅刻……にしては、慌ててない。なんなら彼女は制服を着ておらず、ファッションに無頓着な俺でも、何だ何だ? と感じるくらいに、気合が入ったビジュアルだった。
「今日は高校の創立記念日で休みなんですよ」
「あー……たしかにそんなのあったな。この時期だっけ」
もう1年。されど1年というべきか……高校の行事だいぶ忘れてるなぁ。
そんな懐かしさと寂しさの
「その格好、どっかに出掛けるんだろ。なら俺は大学だから鍵はいつものポストに入れとくぞ」
受験生だから休みの勉強しろ! なんていうつもりはない。むしろこうして居候と勉強みてもらうお返しだと、普段の家事をしてくれているので、たまには息抜きしてこいと言いたいくらいだ。
俺と如月。どっちが先に帰って来るかわからない以上、家の鍵もどちらかが持っているというのは都合が悪くなる可能性がある。
なので予め提案したのだが、当の如月は「その必要はないですよ」と何やら意味深な返事をする。
何言ってんだコイツ……。
「それよりセンパイ、そろそろ出ないと遅刻じゃないですか?」
「ん? あ、そうだな」
言われて視線をもう1度時計の方へ。
10時30分。焦る必要はないが、そろそろ出ないと時間に余裕が無くなって来る。
サッと空になった食器をシンクに追いやり、身嗜みを整え筆記用具の入ったリュックを背負う。
その間に如月は如月で、身支度を進めていた。
クリーム色のワンピースにデニムのジャケット。鞄は見た目より収納性を取った大きめの肩掛け鞄を右肩から袈裟掛けする。最後にチェックのベレー帽を被った姿は、大人びていて、ぶっちゃけ俺より大学生感を醸し出していた。
どうやら如月も同じ時間帯に家を出るらしい。
そんなことを思いながら、如月と揃って玄関へと向かうと、
「さぁ、行きますよセンパイ!」
何故か如月が俺を待っていた。
何かがおかしい……。
「なぁ如月、お前の今日の予定訊いていいか?」
胸の内にドンドン膨れ上がっていく疑問の種に耐えられず、俺が尋ねると如月は「今日の私の予定はぁ……」と、勿体ぶるように、ゆっくりと間延びした声で俺の反応を煽り――――、
「センパイの大学に付いて行って、セルフオープンキャンパスです」
ウィンク1つ。如月は俺に向けて決め顔でそう答えた。
**********
俺が通う大学は、家から徒歩15分ほどの住宅地の外れにある。
近くには付属の幼稚園と中学、コンビニがあるくらいで、時折通り過ぎる車以外に音が少ない。
綺麗に整備された歩道は、まるで件の大学の学生のために作られたかのように仕立てられていた。
「たくっ……こういうことは予め言えよ……」
「予めと言われましてもぉ、ふと思いつきでしたものですから」
「思いつきねぇ」
まだまだ色付くことを知らない、鮮やかな葉をつけた並木の影で陽光を凌ぎながら如月は平気でそんな嘘を吐く。
思い返せばここ最近、コイツに大学について色々聞かれていた。
出欠の取り方に席の確保、必要教材の有無。果ては俺が大学に行く時間を曜日単位 で……。
ただの雑談だと答えていたが、まさかソレが今日のためのリサーチだと思うまい。
「というかウチのオープンキャンパス行ったことなかったのか? 8月の頭くらいにあっただろ?」
サークルや同好会に参加していない俺には関係の無いことだが、たしか大学からその旨が書かれてたメールが来ていた気がする。
たかが1学生に過ぎない俺より、大学側がきっちりとしたプランを組んで、説明してくれるオープンキャンパスの方が有意義な時間を過ごせそうだが。
「もちろん今年のオープンキャンパスには参加しましたよ。でも、なんというか……堅苦しかったんですよね」
「ほお」
「20人くらいのグループで施設の案内されたあとに、最後に講堂で大学の歴史とか学科の説明されて……感覚的には興味のない工場見学させられてる気分ですよ」
「それは……うん。気持ちがわからんでもないな」
高校生にとって大学について知りたいことと言えば、施設や設備、まして大学の歴史ではなく、“高校までにはなかったキラキラのキャンパスライフ”が大多数であろう。
講義風景や、学生たちの1日の何気ない動き。サークル活動などなど……。
大学の凄さではなく、大学生になった自分を想像できるか否か。如月の証言的にオーキャン運営と現役受験生の間で、需要と供給がミスマッチしているようだ。
だからといって、なら直接ド平日に乗り込んでやろうという彼女の豪胆さには驚かされる。
「それよりセンパイセンパイ。どうです? 私、大学生に見えます?」
「知らん」
「ブー…………だから彼女いない歴イコール年齢の非モテは――――」
「急に刺してくるのやめろ」
片手を頭の後ろに当てて、斜め前を向きながら流し目気味に決め顔になる如月。顔立ちが良いから様になっているが、質問に対する答えとは異なる。
ぶっちゃけ大学生っぽいなんて指標はありゃしないのだ。
例えば中高生なら、学ランの型崩れや腰パンの位置。セーラー服のリボンの色にスカートの裾の短さなんかで、
しかしこと大学においては、ソレができない。
流行の色に韓国コスメをバチバチに決めた、私こそが最強! みたいな学生もいれば、ヨレヨレの服にクロックスで講義を受ける、“1人暮らしの限界大学生”のような格好もまた、ある種の大学生像と言えるのだから。
だからまぁ、この格好が如月の思う大学生像なら、それもまた正しいのだろう。似合ってはいるしな。
そんなこんなで、無事時間までに大学に到着した。
「今日の講義室は……っと。おけ、6階だからエレベーター使っていくぞ」
「あ、はい」
ウチの大学はレンガ調の外壁に講堂のようなデザインの棟に反して、内装は近代的だったりする。
学生や講師の移動の負担を減らすため、8階までのエレベーターが用意されていたり、エントランスの掲示板は3桁インチはありそうな強大なディスプレイを採用していたりと、オフィスビルに近い内装となっている。
スマホから大学のポータルサイトで講義室を確認した俺は、ポカンと連れられるがままの後輩を伴って、目的地へと向かう。
どうやら1
「如月、お前目悪いかったっけ?」
「両方裸眼で1.5あります!」
「良いな……じゃなくて、うん。それならどこ座っても問題なさそうだ」
「大学って先生に当てられたりするんですか?」
「そういう講師もいるっちゃいるが、この講義はひたすら話聞きながら板書するだけだな」
とは言ったものの、4人掛けの長テーブルが横に3列。縦に10列ほどある広い講義室で、極端に後ろ過ぎると指摘を受けるし、かといって前過ぎて「あれっ、君今までの講義でいた?」みたいに訊かれるのも困る。
結果、俺と如月はやや前目の中腹の席を陣取ることにした。
「なんだか新鮮ですね」
不意に如月がそう言葉を零した。
「ん。そりゃ高校までの授業の受け方と違うから、目新しいだろうよ」
「そうじゃなくて……フフッ」
「なんで笑ってんだ?」
曲がりなりにも寝食を共にしてる同居人の心境がわからない。
このモヤモヤを抱えたまま講義を受けたくなくて、答えを催促すると、如月はパッチリとした瞳を幾許か柔らかく細め、
「センパイとこうして並んで授業を受けるのが新鮮なんです」
「————————っ」
「私にとってセンパイはセンパイなんですけど、今は同じ目線? 同級生みたいな感じがしません?」
そうハニカム彼女に、不覚にもドキッとしてしまった。
ソレを悟られたくなくて、すぐさま悪態が口から出てしまう。
「俺たちが同級生だったら、まず確実に俺はお前に相手にされてないだろうな」
「たしかにー。センパイ、女の子の友達とかいなさそうですよね。私とも先輩後輩、同じ部活とか色々積み重ねてようやく話せるようになったくらいだし」
「お前、結構失礼なこといってるぞ?」
「ご心配なく、センパイにしか言いませんから」
「心底嬉しくねぇ“だけ”だな」
軽口の応酬は教壇に講師が現れたのでそこまで。
俺は普段どおり、頬杖を突きリラックスした姿勢で受講する体勢を取るが、まるで俺に反比例するように、隣に座る如月の肩が強張るのを感じた。
先刻まで減らず口を叩いていた彼女が、嘘のように緊張した様は
「センパイ、さっきから無言で音の子見つめてニヤついてるのキモイです。私じゃなかったら事案ですよ」
――――前言撤回。やっぱ可愛くねぇや。
【あとがき】
拙作をお読み頂きありがとうございます。
面白そう、続きを読んでみたいと思って頂ければ
非常に励みになります!
現在、本作はカクヨムコン11に参加中。よろしければ評価のほどして頂ければ、狂喜乱舞します。
明日は19時40分ごろに投稿予定です!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます