異世界迷宮と恋の魔法

tai-bo

プロローグ 古書と異世界の扉


平凡な高校生活を送る健一。放課後、いつもの図書館でお気に入りの古書を探す。今日は特に疲れていて、古書棚の奥に眠る古い本に目がとまる。


その本は、銀色の装飾と奇妙な模様が施された、異様な雰囲気を持っていた。表紙は柔らかく、ページも古びているが、不思議と引きつけられる。


彼は本を手に取り、ページを開く。そこには、古代の魔法と異世界に関する記述があった。


「この魔法書……どこか見たことがあるような……」


ページに描かれた図や文字が、何かに呼びかけるように揺れる。彼の指がページをなぞると、突然、光が爆発し、彼の周囲がまばゆい光に包まれる。


次に気がつくと、彼は見知らぬ場所に立っていた。巨大な草原、奇妙な植物、遠くにそびえる城壁。空には二つの太陽。


「うわぁ……これ、夢じゃないのか?」


心臓がドキドキと鳴る中、彼はゆっくりと周囲を見回した。風が彼の髪を撫で、草の香りが鼻をつく。どこかで遠く、鳥の鳴き声と魔法のような静かな音が混ざり合っている。


「ここは……一体どこだ?」


彼は自分の腕を見つめ、ポケットに手を入れる。しかし、スマホはもちろん、何も反応しない。


「あれ……何も持ってない……」


不安と好奇心が入り混じりながら、彼は少しずつ歩き出した。目的もわからず、ただ現実からの逃避のために。


遠くの空に浮かぶ奇妙な浮遊島や、巨大な魔法の塔が見えるたびに、彼の胸は高鳴った。


しばらく歩き続けていると、城壁の入り口付近で人影が見えた。制服のような衣装を着た少女たちが、笑いながら話している。


健一は警戒しつつも、「とりあえず話しかけてみるか」と思い、ゆっくり近づいた。


少女たちは彼に気づき、驚きながらも微笑みを浮かべる。


「あなたは……?」


彼女の一人、長い銀色の髪に青い目をした少女が優しく声をかけてきた。


「え、あ、僕は……健一です。日本から来ました……」と震える声で答えたが、自分の言葉に確信が持てない。


彼の頭には、何も思い出せない空白の記憶が広がる。自分がなぜ、何のためにここにいるのかさえ分からない。


それでも、少女たちは優しく彼を迎え入れ、緑の少女が笑顔で言った。


「あなたは……迷い込んだのね。きっと、私たちの世界と何か関係しているのよ」


その日から、健一の異世界での生活と冒険が始まる。記憶も、未来も、何も確かなことはない。ただ一つ確かなのは、彼の心に芽生えた小さな「希望」と「好奇心」だった。


彼はゆっくりと、しかし確実に、新しい世界を受け入れ、その中で自分の居場所を見つけようと決意した。

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