第6話 内観
夏には花火を見に行った。仲良し5人組で行って会場では2人になって花火を見る予定だ。
奈々の浴衣姿が見たくて2人で浴衣を買いに行った。そこの店では浴衣を着た写真を店頭に1ヶ月飾る事を条件に着付けをサービスしてくれるらしく、奈々は喜んで条件をのんだ。奈々が選んだのは藍色の浴衣地に黄色、赤色、緑色のかざ車の模様の浴衣だ。当日の楽しみの為僕は奈々が着た姿を見ないことにした。なんと、奈々に勧められ僕も浴衣を買う事になった。奈々が選んでくれた浴衣は濃紺地に縦縞がまばらに有るような模様の浴衣だ。
花火当日、予約の時間に2人で店を訪れ着付けをしてもらう。奈々は自分で髪の毛を綺麗に後ろにまとめていて、いつもと違う髪型に僕は既にドキドキしてしまった。それぞれのブースで着付けをしてもらい僕は奈々の仕上がりを待つ。少しするとかざ車の浴衣を着たすっごく可愛い奈々が現れた。
「お待たせ。どう?」
僕は直ぐには声が出せなかった。だって…凄く似合っていて可愛い…。ニヤけた顔を隠す為口元に手を当てて、
「似合ってるよ。」
と言うのが精一杯だった。僕のそんな態度を見て店の人達は微笑んでいた。店の大っきい鏡の前で2人並んで立つ。
〝ヤバい。最高。奈々。カワイイ。〟
もう、僕の頭はそれしか無かった。
「翔ちゃん、カッコいいね。花火楽しもうね。」
奈々は最高の笑顔で僕に語りかけた。
花火よりも僕は奈々を見ていたかもしれない…。奈々から目が離せなかった。繋いだ手から僕のこの気持ちが伝わるんじゃないかと思うほど僕はドキドキしていた。
僕は、僕達は最高の夏を過ごした。
冬にはスノボに挑戦した。雪が少なくて結局2回しか行かなかったけど、初心者用のコースから降りて来れるまでにはなった。
僕達2人は何度も転びながら、笑い合って雪の中転がって青空を見上げた。冬の空は澄んでいて青が濃く感じた。
僕の初めてはいつも奈々がいた。
「高校の時から知ってるからもう6年くらいかな?何かここまで来ると翔ちゃんが身体の一部みたい。私の気持ち解る?」
「あー、解るよ。いつも側に居るのが当たり前だし、思い出にも全部出て来るし…笑」
「だよねー。私の昔話にも必ず翔ちゃんが出てくる!笑笑」
「そんなもんだよな。」
「でもさー、私達も歳取ったよね!仕事も重要な事任されたり、何か下も何人か入って来てプレッシャー?ねー翔ちゃんは仕事どうなの?」
「あー確かにね。プレッシャーもあるよね。指導員みたいな事もしてるし。」
「へー翔ちゃんが指導員?大丈夫なの?」
「まーやってみようと思って。…あのさー、今、仕事忙しくて、これからはあんまり会えなくなるかも。」
僕は思い切って奈々に話した。兎に角、身体を休めたかった。奈々と居ることよりも寝ていたい…。最近はそればかり考えていた。優しい奈々は僕の気持ちを解ってくれて、僕の身体を心配していた。
残業が毎日の様に3時間もあり身体はヘトヘトだった。そんな事もあってか僕は奈々と遊ぶ時間を取ることも減ってきていた。だから、奈々から連絡が来なくなっても、僕から連絡をしなくなってもそれに構っている時間は無かった。いつもダルかった。
いつもの5人で遊ぶ事も少なくなって、奈々とは、2回目の自然消滅になっていた。あんなにドキドキしたのに、あんなに好きだったのに、会わなくなるとそれが当たり前の様に感じてくる。僕は身勝手な人間だ。僕は僕の気持ちが信じられなくなっていた。
仕事中も奈々の事を考えた。それは〝会いたい〟ではなく〝どうして会わなくても平気でいられるのか?〟あんなに僕の身体の一部みたいだったのに、喧嘩をしたわけでも無いのに…。お互い何も言わずに1ヶ月が過ぎていた。
嫌いになったわけじゃない、憎んでいるわけでもない、ただ僕は奈々のことが好きじゃなくなったのだ。奈々にかける燃料が無くなったのだ。そう僕なりの答えが出ると僕は、思い出を引き出しに仕舞った。
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