第10話-雷の狐は轟と鳴く

赤黒い電撃が走り、一瞬の間、白い靄を残し消えた。

水竜は去った、轟雷に灼かれ、しかし未だ息を繋いでいる。

「...すごい......」

その場の全員がその光景を見て、立ち尽くす。

まさに有言実行、一撃で水竜を撃退してみせた。

べルシアの持つ重槍が、彼女が息をついたと共に金属の刃のような板へ分解され、脚甲や腕甲として変形して装着されることで収納された。

「私は奴を追うつもりだが、君たちは目的を果たしたなら早く街に戻った方がいい、そうしておけば、まず確実に巻き込まれることは無い」

べルシアは膝下から足裏までを覆う脚甲を確認し、地面を強く踏みつけた。

「あ、ありがとう!」

泉が忘れていた、と、べルシアが去る前に礼を言った。

「ああ...それと、誰かにここのことを聞かれても、私のことは言わないでおいてくれ、ここのギルマスには知られているだろうけど...」

「うん、わかった」

「よろしく頼む、それでは」

走り出す形になると、脚甲の脹脛ふくらはぎの横の部分が、鱗が捲れるように、一枚一枚開く。

腕甲だった刃が変形し、両の肩甲骨辺りに翼のように装着される。

そしてほんの一瞬だけ、火花の散るような音がした。

直後、泉達の前には小さな範囲だけ抉れた地面だけが残っていた。

//////

べルシアは今、走っている。

否、飛んでいる、と言った方がいいかもしれない。

べルシアが扱う武器、準人工魔剣"雷導の機剣エルカドクトマキニア"。

元々、"雷導エルカドクタ"という魔剣だったが、特殊な体質のべルシアに合わせて改良が施された。

そして、それの権能、つまり能力、それとシナジーを引き起こすパーツが、浮遊する金属の刃である。

ミカミノクニの神代結術カミヨノユエクミと、ハレウメアの龍脈古術ドラコプルシカルの結晶。

つけられた名前は磁雷刃マグネカフェラン

元々、べルシアの暴走する魔力を抑える為に作られた物で、その止め処無く溢れる魔力を用いて戦闘することが出来る。

他にも、今のように、高圧の電気で無理矢理体を動かすときの負荷を肩代わりし、操作性を齎す。

(両肩の飛行型ヴォラルで操作、足の飛行型ヴォラルで調整......新発見の能力も、慣れれば問題は無さそうだ)

失速したらまた片足を電気で刺激し、無意識下のリミッターを無視した力で地面を蹴る。

その、普通なら足が耐えられないような反動を龍脈古術ドラコプルシカルのうちの一つ、<龍命・拒絶レクディアト>で打ち消す。

その強いだけの推進力に、神代結術カミヨノユエクミで造られたパーツが指向性を与える。

そのお蔭で、こうした高速移動を可能にしている。

(この先だな...)

鬱蒼とした森の中を無茶苦茶な力と動きで駆け抜ける。

時に、空気中に魔力を散らし、凝固させた空気を踏んで、無理矢理に木々を避ける。

そして、森の中にある湖に出た。

中心に、大木の生えた浮島がある。

その丁度真下から、紫色の光が放たれている。

(あの光があるということは、やはり...)

飛行型ヴォラルを解除し、すかさず分解した刃に特殊な磁界を纏わせる。

すると、その刃は辺りに浮遊を初め、べルシア自身の意思で動くようになった。

手始めに四枚、水中へ突撃させた。

......手応えはなかった。

刃を水から引き上げた直後、一瞬の虚を衝くかのように、水面を超え、水竜のものと思われる高圧の水の線が放たれた。

「見つけた」

ブレスの角度から位置を測る。

電磁力を操作し、刃を動かす。

(形態移行...潜水サブアクア)

顔を覆うように、実体化した魔力のバイザーが張られる。

水に潜ると同時に、肩甲骨、先程の飛行型ヴォラルがあった辺りに、魔力の流れで推進力を生む機構の潜航型ナタールが装着される。

バイザーによって鮮明になった水中の景色に、浮島から突き出た木の根に絡まる紫色の正二十面体の結晶と、先程よりも黒みが濃く、傷の癒えた水竜が映る。

(あれ程染まっていると、残りはあと十分ぐらいか)

残った全ての磁雷刃マグネカフェランを分解した。

「"雷導エルカドクタ"」

釘のような剣が、その姿を現した。

一部の磁雷刃マグネカフェランを防御に、又、一部を加速に回す。

水竜を目掛け、直線を描き一気に肉薄する。

時折飛来する、ブレス、と思われる水圧の違いで生じる水の歪みを磁雷刃マグネカフェランで弾く。

そして、水竜の鱗を貫通し、深くまでその剣を突き刺した。

水に流れないように、体から漏れ出す雷の魔力を収束させる。

「<霆狐煌エスカアレペゥ吠ゆるは赫き雷霆也コチーネフルーメーン>」

水竜の全身から溢れ、漏れ出す程の赤い電撃が、水竜を灼く。

誰もいない湖畔に衝撃が走る。

藻掻く間もなく、水竜は死を迎えた。

すぐに、紫色の結晶を回収し、水から出る。

重槍の時と同じように、磁雷刃マグネカフェランを収納する。

潜航型ナタールは少し息が辛いな...ともあれ...完全になる前に討伐出来て良かった...」

染まった魔物、魔獣は凶暴化する。

生半可な器では染める力に適応出来ず焼け死ぬ。

しかし、あの水竜のように強大な力の器が染まれば、染まりきるまで生き続ける。

染まりきった器は、理に昇華する。

即興で一時的な・・・・・・・理なら一般人でも頑張れば破れる。

しかし、後付けされた・・・・・・理は、"神"でしか破ることが出来ない。

「帰ろう...」

びっしょりと濡れたまま、亜空に入った。

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