第5話-七星蒼冰
ワッカーが泉によって広場へ蹴り飛ばされる少し前。
今のところ作戦が順調に進んでいる事を確認した神天は、泉の元へ向かいながら、悩んでいた。
(あの剣について教えた方が良かっただろうか?)
あの剣は神天が七年前に手に入れたものだ。
何千年もの間、
柄尻から鋒までが漆黒、刀身に七星紋が刻まれた剣。
蒼く光を反射する、歪にも見える紋の浮かぶ玉。
二つで一振。
その銘を、"
魔剣というものは基本、剣自らが主人を選ぶ。
近くに寄ったとき、理由無く、何処かに大切な何かがあるような、又は、磁石のように、無意識に手に取ろうとするような錯覚に落ちる。
それが、魔剣に選ばれるという感覚だ。
では、選ばれていない者が魔剣を使おうとするとどうなるのか...。
ワッカーに気取られないよう背後へ忍び寄る。
ワッカーの剣を握る腕は完全に凍てついていた。
これが、選ばれなかった者が扱った結果。
これが、『七星蒼冰』の権能。
万象の凍結。
その凍った腕を打ち砕く。
一撃で細かく砕け散り、握られていた剣が落ちる…前に神天に拾われた。
魔剣"
細身の長剣、七星蒼冰の芯を成す。
万象に干渉する権能を持つ。
魔剣"
七星蒼冰の刃を象っており、本体は玉。
剣の形を
氷を操る権能を持つ。
愚かにも魔剣を使用した
「お前如きが七星蒼冰を扱えるわけがないだろう...?」
侮蔑を込めて言い放った。
//////
腕を失い、感覚を取り戻したワッカーが無くなった腕の部分を押さえ、呻く。
「神天は触って大丈夫なの?」
「この剣は、言うなれば、俺の一部のようなものだからな」
(分かっていることは殆どないんだが...俺を選んだ理由すら...)
それで、と言葉を続ける。
「こいつはどうするんだ?」
ワッカーのいた場所に目を...。
「「なっ!」」
二つの、驚愕を含む声。
それもその筈。
どういう訳か、そこにあったはずのワッカーの姿は、神天がただ一瞬だけこちらを見た間に、跡形も無くなっていた。
「これは...逃げられたのかな?」
砕け散った、腕だったものがあるのであの本体が幻影だった、という線はないと切り捨てる。
「捕らえることはできなかった、だが物は取り返した、それに、企みも阻止できた...今はそれでいいだろう?」
「...そうだね...まぁ、あの腕じゃ何もできないだろうし、これに懲りてくれればそれでいいんだけど...」
さっきまでかなり騒がしく感じていたものの、落ち着いてみれば、辺りは暗闇と静寂に包まれ、月明かりが仄かに地面を照らしているだけであった。
//////
翌日。
昨夜は一部始終を見ていた村人にお礼と言われ、泊めてもらった。
早朝、村を出る。
「泉、折角だから俺も旅について行ってもいいだろうか?」
唐突に質問された。
「でも、神天は神天で行くところがあるんじゃ...?」
頼もしい仲間が増えることは悪いことじゃない、ただ、それで誰かを縛ることは嫌だ。
「いや、どうせ行く当てもないからな、何処か目標を定めて、ついて行ったほうがいいのかもしれないと思っただけだ」
「私も行く当てなんてなかったけどね」
微笑を含んで返す。
「でも、うん、神天が来てくれるなら心強いよ!」
「...そうか」
一言だけ呟き前を向く。
「...本当に行く当てがないなら、まずはここから一番近い街に行くのはどうだろうか」
「えっと、山越えない?それ」
「確か、森を抜ければ、街道に繋がる洞窟があるはずだ」
泉達のいる位置から一番近くの街は、アルバ大陸の中で最も険しいと言われている、ハルフェリア山脈を越えた先にある、
まぁ、どちらにしろ何処へ行ったっていいのだから、先ずは近場から行ったほうがいいだろう。
「そっか、じゃあ、出発しよー!」
既に日は昇りきっている。
//////
森の中。
二つの影。
そのうちの、少女の影。
「ねぇねぇ、今のってさ...」
そのうちの、少年の影。
「あぁ、"神"の気配、それも
...。
「追う?」
「そうだな、場合によっては...」
少年の影は、拳を強く握りしめた。
体の表面を電気が奔る。
//////
洞窟の先、平原の入口。
女性の影
「...!"神"の気配...?洞窟の先から...?」
当たりを漂う数多の金属の刃が集い、大剣を成す。
「...それに、この気配は...」
その人物の右目には、縦に深い傷があった。
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