第3話 -旅の出会い

「よし、準備終わり!」

果たしてそれが準備というほどのものだっただろうか、という疑問は置いておこう。

朝は依頼を消化し、昼から旅支度を始め、夜になって漸く終わった。

少し...いやかなり無駄が多かったような気もするが。

(もう明日だし、今日は早く寝ようかな)

そう、明日、泉はこの村を発つ。

無限とも思えるこの世界を、殆ど縛られることなく旅できることは、それ自体は、楽しみにしている筈だ。

だがやはり、昨日からずっと、胸のどこかが寂しい。

一人旅だからか、それとも、村を離れることが嫌なのか。

そんなものは分かりきっている筈だ、それなのに、どこかでつかえていて、何かが分からないでいる。

それが、拒絶なのかどうかすら...

自分の心情が理解できず、ため息をつく。

(だめだなぁ、もう明日なのに...こんな...)

こんな感情忘れて早く寝よう。

そう思って、そのままベッドに沈む。

自分の体がやけに重く感じた。

−−−◇

翌日。

自分の緊張とは裏腹に、何故か深く眠ることができた。

旅立ちの日、だが、家には誰もいない。

自分だけ。

だが何故だろうか、頭がスッキリしていて、昨日とは違い、締め付けるような寂しさは何もない。

そして、誰もいない代わりに、机の上には細長い包とあのチョーカーが置いてある。

静寂に包まれた家の中に包の開かれる、衣擦れの音が響く。

すると、鞘に収められた剣が顔を出した。

引き抜いてみると、スラリとした流線の刃を携えた、サーベルがその刃を顕にした。

どこからか、ハラリと音がする。

同封だったのか、紙が机の上に落ちた。

『       巻  』

白紙の中の右下にそれだけ書かれていた。

(......ズルい奴...)

一体、泉のことを嫌っていたような、今までのあの態度はなんだったのだろう。

そう思うと、何故だか目が潤む、だが、決して零すまいと、上を仰いで目を押さえる。

腰にサーベルを佩いて。

実母のチョーカーを身に着けて。

誰もいない、静かな家を...我が家を後にする。

いつになったら戻れるのか、そんなことは考えない。

折角、この広い世界を旅できるのだから。

それならば、この機会を無駄にはしないようにと...。

惜しみは無い、悲しみは内に秘めて、目は真っ直ぐ前を見据えている......。

////////

「...行ってらっしゃい...泉...」

「.........」

「貴方はあれで良かったの?」

「あぁ、直接送ったところで、怪訝な目を向けられるだけだ...」

「そう...」

「それに、自業自得だからな。彼奴の妹と言うだけで嫌気が差した、なんてのは、ただの八つ当たりだ」

////////

森に入って数時間が経つ。

朝早くに出発したために、まだ日は暮れていない。

「どこか開けた場所を見つけないと...」

完全に暗くなれば、方向感覚が失われてしまう。

すると、少し焦りを感じ始めた泉の周りに、焦げるような、何らかの匂いが漂い始めた。

(んん...?なんか、燃えてる?)

辺りを見回し、ほんのりと吹くそよ風を辿ってみると、暫くして、狭く開けた場所に出た。

そこには焚き火があり、青髪の青年が...

「...あ」

「.........?」

これは再会であるが、この旅に於いて、初めての出会いでもある。

「...なんでまだいるの?」

「探し人が見つかっていないからだ」

焚き火の前に座る青髪の青年は、そう、あの時出会った氷の魔法を使う青年だ。

「...俺はもう行く。急がないと行けないんだ」

「ねぇ、一つ聞いていい?なんでその人のこと探してるの?」

「......武器を盗られただけだ」

「武器を...武器を?」

泉は何かに気付いた、というのも、その人物について心当たりがあるからだ。

初めて会ったときに、鰐種の人を探していて、今、武器を盗られたとも言った。

泉のいた村で一時期起き続けた事件。

村の農具や武器が無くなったり。

突然魔獣が押しかけたり。

しかもその全てに、共通の痕跡が故意に残されて...。

「あー...今更なんだけど.....もしかしたら知ってるやつかも...」

「!...本当か!?」

少ない口数だった青年がいきなり食いつき、吃驚した。

「う、うん...えっと、私シューラストっていう村から来たんだけど」

「シューラスト?確か...この森からは40クミロ20kmは離れているが…」

そんなに歩いたとは思わなかった。

「そんな離れてたんだ…まぁいいや、それで、そこで起きた事件の中にね、鰐種のワッカーって奴の仕業のやつがあってね...」

青年に村で起きた事を話した。

「なるほど…そいつは火を使えるか?」

「確か、使ってたかな、放火しようとしたところを見つかったって話もあるし」

「見つかっ...?いや、そいつが何処にいるかは?」

「いやそれは...あっ、でも、あいつ結構杜撰だから何処かに手掛かりとかはあるかも」

まぁ、その杜撰な相手如きを捕まえられた試しが無いのだが。

「探してみよう、どんなものとかはあるのか?」

「尻尾を引き摺った痕とかかな、私も手伝うよ」

こうして、旅立ちから一日と立たずに、森の中で長い長い痕跡探しが始まった。

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