第22話現代の呪い


「君あれだろ。警戒心を母親の胎内に置いて来ただろう?」


 相談所の片隅に置いてある棚の物を、バインダーに挟んである紙を交互に見ながら久我さんはそう言い放った。



 相談所に働き始めてから、放課後はここに来る事が日課になった。

 依頼があればそれに向けて、調査や書類作成を行うが、今はその依頼もなく、こうして久我さんと駄弁っているのだ。

 

 私は先日再会した男性、月山さんの話を報告も兼ねて話した。


 本条さんの件は、月山さんがくれた本がきっかけで解決したようなものだから。


「そう言えば、何で私はあの本を読んで、過去の出来事を見ることが出来たんですか?」

「あぁ。それはきっと残留思念のせいだな。」

「残留思念?」


 初めて聞く言葉に私は小首を傾げた。


「あの本自体、本条さんの後悔を形にした作品なんだろ?その後悔の念があの本にはあった。それが残留思念だ。その残留思念を君が感じ取った…と言うことだ。」

「生きてる人間からも出るモノなんですね。」

「死んでる人間より、生きてる人間の方が怖いんだって事を覚えとくといい。」


 

 そう言う久我さんの目はどこか遠い目をしていた。

 きっと何か思う所があったんだろうか…。と久我さんの様子を見て思った。


「因みにだが、これは楪さんからの報告で、本条さん、あれから桑島さんと和解したらしい。桑島さんの容態も安定して来週には退院出来るみたいだよ。」

「そうですか…。良かったです。本条さんと桑島さん、二人の亡くした青春の思い出を取り戻して欲しいです。」


 仲の良い友人と喧嘩別れしたままというのは、辛いものがあるのだろう。

 大人になった二人は、きっと亡くした時間も年齢に伴って膨大なものとなるだろう。

 それをこれからゆっくりと取り戻してもらえたら…と心から思った。


 私のその様子を呆れたような視線を送る久我さん。

 

「…君は…本当に…。」

「な、何ですか…?」

「いや。何でもない。」


 そう言って、棚とバインダーに視線を戻す久我さん。


「ところで、先程から何を見ているのですか?」

「俺が作った護符の在庫確認だ。前におじさんが説明しただろ。俺が作った護符は番号振って管理してると。」


 そう言えばしてたな。


 

「久我さんの護符、効果覿面なんですから、売ったら儲かりますよ?」

「だから売れないんだ。」


 その言葉に私はまた小首を傾げた。


「俺の作った護符は一般人が手にするには強力すぎる。それに…。」

「それに?」

「これらは。」

 


 私に背を向けた形で棚の護符の在庫確認をしていた久我さんだが、その背中にはどこか物悲しさがあった。

 


「それってどういう事ですか…?」

「…いずれ分かるさ…。」


 私は久我さんの言葉の意味が分からず、更に疑問が深まった。


「うお〜い。戻ったぜぇ〜?」


 間延びした声と共にこの相談所の所長の明さんが相談所に戻ってきた。


「お帰りなさいです。」

「お帰り。」


「くっそぉ〜。あとちょっとだったのに軍資金が枯渇したぁ〜!!」

 そう悔しそうに頭をガシガシ掻いて、真ん中の所長の席にドカリと座った。


「弱いんだからやんなきゃ良いだろ…。」

「うっせ。」


 久我さんのツッコミにむすくれる明さん。

 明さんは依頼がないと近所のパチンコ屋に行く事が多い。因みに勝つことはあまり無いらしい。


「パチだけに行った訳じゃねぇよ。情報屋があそこでしか話したがらねぇから仕方がなく行ったんだよ…。」


 情報屋…?


「…何か聞き出せたのか?」

 

「先の依頼の奴…明らかにこっちの知識がある奴の差金だ…。と、なればこっちの情報に精通した人物に話を聞くのが一番だが…あいつの趣味趣向に付き合いながら聞き出さなきゃならんから、自然とこっちもパチ打つハメになるんだよ…。」


「変わった方なんですね…。」


「そーなの。今度みっちゃんにも紹介するね〜。」


「で?情報は?」


「聞いたよ。今回の桑島さんみたに一般人に呪術…というか呪いを教える輩は間違いなくいる。その手段としては、SNSだ。」


「SNSか。まぁ、確かに手軽に情報発信できるからな。んで、その情報発信源は分かってるのか?」


「おうよ。…これだ。」


 そう言ってスマホの画面を見せる明さん。その画面には有名なSNSの画面があり、こう書かれていた。


 

 【アナタニハ ユルセナイヒトガ イマスカ?】


 

 その一言の投稿にURLが添付されていた。


 久我さんはその投稿に続くコメントを見るために画面をスクロールした。

 コメント欄には。


 【胡散臭】

 【厨二病乙WWWW】

 【今どきこんなのに引っかかる奴いるのか???】


 などの書き込みが見られた。


「(まぁ…こういう事をわざわざ書き込むのはどうかと思うけど、確かに怪しすぎるよな…。)」


「下らない…が、よく出来てる。」


 そう呟く久我さん。


「どういう事ですか?」



「人間っていうのは精神的に追い込まれると、何でも良いから救いを求めるものなんだよ。それも非現実的なもの程、そういう奴はハマりやすい。」


 そう言いつつ添付されてるURLを迷いなくタップすると別サイトに飛んだ。

 飛んだサイトは黒い背景に白い文字で、メールアドレスと一言こう書かれてあった。


 


「こちらのメールアドレスからご依頼お願いします。あなたに合わせた呪術を授けます。」



 

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