第20話呪い在り方


「成程。桑島さんの動機の一端は把握しました。ここからが問題なんです。」


 一通り話を聞いた明さんが真剣な眼差しで本条さんを見据える。


「問題…?」


「はい。私は今回のような問題を専門としておりまして、その分野の見解としましては、今回最も被害があるのは呪いをかけた桑島さんになります

 。」


「桑島が?」


 その話を聞いて信じられないと言った表情を浮かべる本条さんを差し置いて、明さんは話を続けた。


「呪いというもの自体、、荒唐無稽な話かと思いますが、大なり小なり実際あるものなんです。それのどれもが通じるのが『人を呪わば穴二つ』。人の事を呪うのであればそれ相応の代償を払うことになるのです。」


「それなら、そこまで桑島の方も被害は出ていないんじゃ…。」


「だからなんです。本来なんですが、この呪いは直接本条さんに届くはずだった。それが、本条さんには届かずに、本条さんの本を読んだ人達に、変な夢を見せるという中途半端な形で発動してしまっている。恐らく、呪術の儀式が中途半端になってしまい失敗した形で発動してしまった。しかし、代償は支払うことになる。」


「あの…その代償ってなんですか…?」


 本条さんが恐る恐る尋ねた。


「生命力です。専門家でもある私たちですら呪術はコスパが悪いのであまり使わないのですよ。それを素人である桑島さんは何度も使った形跡が見受けられたので。」


 明さんの話にみるみると顔色が悪くなっていく本条さん。


「で、でも!桑島が呪いをかけたという確証は!!?」


「その点に関しても私からは断定はできません。しかし、助手の雪平が呪いの起源を辿っていったら桑島さんにたどり着いたのです。」


 嘘は言ってないけど、明さんの話す内容は真実というにはあまりにも齟齬がある。がここで口を出さずに黙っていた方が話がスムーズに進みそうなので私はあえて黙っていることにした。


「私達の方でも確証は得られません。なので、本条さんお願いがあります。現在の桑島さんの状況を確認して欲しいのです。手遅れになる前に。」


 そういう明さんの表情は何か切羽詰まったような様子だった。


「…少し、お時間をいただいても…?」

「どうぞ。」


 そういうと、本条さんは携帯電話を片手に立ち上がり、フラフラと外に出ていった。



「あきおじ、今後どうすんの?あの程度のお祓いならウチが護摩っちゃえばいいけど、その必要もない感じ?」


 そう聞く楪さん。


「そうねぇ〜。今回の呪いはこのままほっといても自然消滅する程度だから、ゆずちゃんは特に何にもしなくてもいいかも。」


 そう答えながらコーヒーに口をつけようとしてない事に気づき、席を立ちドリンクバーの方に向かう明さん。


「あの…呪いって自然消滅するようなもんなんですか?」


 先程の明さんの言葉を聞いて疑問を抱き、久我さんと楪さんに聞いた。


「さっきも叔父さんが言ったように、今回のような呪いをかけるには生命力を削る必要がある。つまり、術者の命が底尽きればそこで呪いは途絶える。」


「それってつまり…。」


「術者が死ぬまでほっとけって事だが、今回の呪術の中途半端な様子や叔父さんは本条さんの話を聞いてその方法は取らなそうだな。」


「あきおじ、あぁ見えて結構人情かだから〜。」


「何度も呪術を掛けないと発動しないような呪いだ。いや、この程度なら呪いじゃなくて子供騙しな呪いマジナイだな。ほっといてもそのうち消える。」


 久我さんはそう鼻で笑うように言い放つ。


「でもよ環。相手さんはそんなおまじないも信じて、命削ってまで実行したんだぜ?ただならぬ執念を持ってるぜ?そういうやつは最後の最後まで何をやらかすかわかったもんじゃないから油断はしない方がいいぞ?」


 そう言いながらドリンクバーから戻ってきた明さん。


「人間、本当に追い詰められると、打開しようとして理から簡単に外れることもある。恐らく、桑島さんも本条さんに対しての劣等感や怒りが自分でどうすることも無くて邪道に走ったんだろう。」


「叔父さんでもその邪道って…。」

「すみません。戻りました。」


 久我さんのセリフを遮るようにして、外に出ていった本条さんが戻ってきた。


「大丈夫ですよ。で、どうでしたか?」


 明さんがそう聞くと、本条さんははぁ。と一息ついた。


「共通の知人に電話で聞いたんです。そしたら、桑島の奴、3日前に倒れて現在都内の病院に入院してるらしいです。」


「間一髪といったところですね。呪いならこのまま放っておけばそうち消えます。しかし、桑島さんが回復してまた呪いを行使してはイタチごっこです。なので、それを防ぐためにもお二人でしっかり話し合ってください。」


 念の為にこちらを…。といい、私が持ってるようなお守りを明さんは本条さんに渡した。


「本条さん。」


 今まで依頼主との会話に割り込まなかった久我さんが口を開いた。


「あなたは才能ある天才で、桑島さんは才能がない凡人だ。才能あるやつが才能ないやつの隣にわざと立って、『お前は才能ある』と言うのは、才能ないやつにとっては屈辱でしかないんですよ。」


「ちょ!たまちゃん!」


「ゆずちゃん。」


 久我さんの突然の発言を止めようとする楪さんをまた更に止める明さん。


「突然助手がすみません。しかし、本条さん。この子の言う通りです。小説家という点に関してはあなたは桑島さんよりもはるかに才能がある。これは私の憶測なんですが、高校の時の桑島さんはあなたが編集者に声が掛かった事を本当は自分のように嬉しかったんだと思います。怒ったのもあなたに憐れまれたもありますが、自分が側にいては友人であるあなたの足を引っ張ってしまう。そう感じて自分に対して不甲斐なさを感じたんだと思います。」


「…。」


「このような呪いを発動させるには相手に対する憎悪などの感情を明確にしなければなりません。しかし、桑島さんはかつての友人であるあなたにそこまでの憎しみを抱けなかった。故に呪術は不完全だった…。と思います。」


 そう話す明さんの表情は先ほどまでの鬼気迫ったような雰囲気はなく、いつもの緩やかな雰囲気に変わっていた。


「あくまでこれは、専門家としての意見なので、その辺を含めて桑島さんのお見舞いにでも行って、話し合ってはいかがですか?」


 そうニコリと笑いながら明さんは言った。


「そう…ですね。そしてみます。」


 そういう本条さんは、ここにきた時と比べると顔色や目に生気が宿ってるのがわかった。


 本条さんはそそくさと身支度をして、楪さんに依頼料を支払い、一礼してファミレスを後にした。


「おぉー。本条さん、即断即決じゃん。行動力パないな〜。」

「思い立ったら吉日ともいうし、速攻行動に移せるのはいい事だよ。

 んで、環、お前さっきなんか言おうとしてたな?」


 ニヤリと笑いながら明さんは久我さんの方に視線を向けた。


「桑島さんは呪術とはなんも関係のない素人。とは断言できないが、本条さんの話と術のクオリティから鑑みて高確率で素人だろう。

 


「!?」


 確かに。

 霊が見えたり、家系的に術師の家系でもない限り、実際に発動する呪術どうやって知る?


「いいところに目を付けるね〜。んで、環的にはどう思う?」


「…一般人に呪術のすべを教える…。しかも叔父さんの見立てが正しいなら…蘆屋家の奴の仕業だと思う。」


「流石俺の甥っ子。」


 久我さんの推測に満足したかのような笑みを浮かべる明さん。


「蘆屋?」


「おりょ?みっちゃん、蘆屋道満知らない感じ?」


 楪さんの一言に話私はハッとした。


「蘆屋道満って、あの蘆屋道満ですか!?」


 驚く私に楪さんは正解!と言いニヤリと笑った。



「蘆屋道満。安倍晴明と対立したとされる陰陽師で、あらゆる話で悪役とされてるけど、それはきっと大昔のお偉いさんに呪術を掛け、それを安倍晴明が看破したから〜なんて話からなんだと思うけど、まぁ、そんなの逆の立場だったら晴明の方が悪になってたもしれないから一概に悪い奴らとは言えないんだよね〜。」


「そうなんですね…。にしても蘆屋道満にも子孫がいたんですね…。」


 驚いてる私を見て面白そうに楪さんが言った。


「そりゃぁ〜、目の前に安倍晴明の子孫どもがいるんだから、蘆屋道満だって子孫がいてもおかしくないよ〜。」


「祖先がどんな悪役でも、子孫の俺らには関係ない…と言いたいけど、今回みたいに悪戯に民間人に呪術を教えてるってなるとね〜?」


 そういう明さんは苦笑いを浮かべてそう言った。


「呪術を下手に一般人に流布すると、人間社会の均衡を崩しかねない。」

「そうだね〜。術を使って人殺ししちゃえば証拠なんてそうそう残らないからね〜。その証拠を探し当てる陰陽師もそうそう人数がいるわけじゃない。みっちゃんみたいな特異体質なんてより一層稀少だ。」


 久我さんと明さんの会話を聞いて、私はこの二人の力の凄さを再認識する事になった。


「ところで、お二人は安倍晴明の末裔なんですよね?その、蘆屋道満の末裔にあったことはあるんですか?」


そう聞くと、明さんは両手を上げ苦笑いをし、久我さんは形の綺麗な眉を顰めた。

 

「あるよ〜。まだ子どもなんだけど才能は一流なのがまた厄介なんだよね〜。」



 「あのクソガキ。次会ったらタダじゃおかない。」

 

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