君と食む

いとう はぶらし

プロローグ


『「忘れる」って言い方だと、ちょっと違うね。あなたを忘れないように胸の中に刻み込んで生きていくつもりだよ。だから、あなたも無理に忘れようなんて思わなくていいよ。』




これまで幾度となく、言葉というものに触れてきた。


喜びをくれる言葉もあれば、胸を締め付けるような言葉も。


その中で、たったひとつだけ、どうしても忘れられない言葉がある。



決して特別な言葉なんかじゃない。


だけど、何故か消え去ることはない。


今もなお鼻腔に残る、あの時の記憶。


くすぐったくて、儚いその感覚は、深く僕に染み込んだ。


その記憶がふいに蘇る度に、僕は前に進めなくなる。



───消えずに残った君の噛み跡のような痕跡。


今でも胸を締め付けて、離してくれない。

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