トウサク劇場

安ノ城ムセ太

大麻にはえろ(よく覚えてない話し6)

 なんか どこかで読んだ気がするけど よく覚えていない話しの再構成


 この物語はフィクションであり、実在する団体、個人等とは関係ございません。また、公序良俗に反する行為を奨励するものではありません。なお、お食事中のご閲覧は推奨しておりません。


 近況ノートにご挨拶があります

 https://kakuyomu.jp/users/cryptosperma/news/16818792440691395291




「たいま はえたろう?」


「大麻生 太郎、おおあそう、です! おおあそう たろう、です!」


 渡した名刺にちゃんとフリガナがふってあるんだけど……


 デカ長(部長刑事)は禿げあがった額に老眼鏡を押し上げて名刺を睨んでいる。


「よし、今日からおまえのあだ名は ”ガンジャ” だ」


 苦み走った往年の二枚目俳優によく似たボス(捜査課長)がそう宣告した。


 ”ガンジャ” は大麻の隠語・符丁だ。そのくらいは僕でも知っている。


「ボスゥ~ 勘弁してくださいよ~」


「駄目だ、これは通過儀礼だ。やり直しはできない」


「よろしくな、ガンジャ!」


「ガンジャ、がんばれよ!」


「期待してるぞ、ガンジャ!」


「ま、頑張れや、ガ・ン・ジャ、ククク……」


 摘路曲つむじまがり署捜査第十課の面々に肩をたたかれて、僕、ガンジャこと大麻生太郎おおあそう たろう刑事デカデビューしたのだった。


 ・


 摘路曲つむじまがり署捜査第十課はファンタジー犯捜査を担当する。


 捜査対象はファンタジーな人の犯罪およびその関わる事物となっている。


 ファンタジーな人とは多くの場合、異世界人とその協力者たちのことだ。


「はい、十課」 


 デカ長が受話器を取った。今、電話鳴りました?


「何? 駅前にファンタジー? 

 ん、ちょと待て、ボス、駅前です」


「よし、長さん、ガンジャを連れて様子を見に行ってくれ、エスダブ携帯無線する」


 差し出された受話器を受け取りながらボスが指令を出す。


「ガンジャ、行くぞ」


「は、はいっ」


 大慌てでスーツを引っかけてデカ長の後を追い、PCパトカーの運転席に乗り込み出発する。


摘路曲つむじまがり駅はわかるか?北口だ」


「はい、駅前交番に勤務したことがありますので」


「よし、緊走きんきゅうそうこうしろ」


 赤灯を点け、サイレンを鳴らす。


 前方の車が両脇に寄る中を左右に気を配りながら走り抜ける。


「ガンジャ、おまえ卒配そつぎょうはいぞくはどこ…、止まれ!緊急停止!」


 びっくりして急ブレーキを踏む。PCは停止した。


「何があったんすか?」


 周りを見回すが、異常はない。


 と、停車した車列の間からひょっこり、爺さんが現れた。


「てめ、じじい!引っ殺されっど!」


 デカ長がマイクで恫喝するが、爺さんは動じる風もなくひょこひょこと道路を渡り切った。


 周りを再確認してPCを走らせ始める。


「よくわかりましたね」


「まぁな、気ぃつけろよ」


「いや、わかりませんって、予知能力でもなけりゃ」


「おっ、リモコンに来たな」


 デカ長は車載無線機リモコンのマイクを手にした。


 遅れて着信ランプが点いた。


「野崎です。ガンジャと一緒に摘路曲駅北口へ急行中、どうぞ」


(長さん、機捜きどうそうさたいがドジった。マルヒ被疑者踊っ暴れてる。応援が着くまで持たせてくれ、以上)


「了解です、以上」


 ・


 駅前にPCを止めると、警官が走ってきて敬礼した。


「お疲れ様です。機捜の日漸之徳ヒゼン ユキノリ巡査長です」


「お疲れさん。マルヒは?」


「マルヒは3名。アンパン野郎とタバコ娘とシャブ親父です。今は改札前で落ち着いています」


あんぱんシンナータバコマリワナシャブ覚せい剤ですか、危ない組み合わせですねー」


「駅封鎖して全員退避させて。電車も止めて」


「はっ」


 ユキノリ巡査長は敬礼して駅へ走っていった。


 ・


 改札口方面がなにやら騒がしい、と思ったら、学校帰りの小学生が大勢集まっている。


「なーんのためにー、すーはー、うー…」


「はーい、散って散って、危ないよー」


「なーにをしーてー、すーはー、よー…」


「早くお家へ帰ってくださーい」


 張り込んでいた機捜の警官たちと共に子供たちを解散させた。


「わーからないーまー、すーはー、すーはー、ぎゃはははは……」


 アンパン野郎が手に持ったビニール袋からシンナーの蒸気を吸って支離滅裂に騒いでいる。


 その横でタバコ娘が唇に咥えたタバコを深く吸い、しばらく息を止めてから、ふぅーと煙を吹き出した。


 シャブ親父は中腰で立ったまま頭が膝につくくらい前かがみになり、じっとしている。


 足元には注射器が転がっている。


「よし、今のうちに確保するぞ!」


 デカ長の指示で警官たちが包囲の輪を少しずつ縮めていく。


「すーはー、すーはー、そーんなんはー、すーはー、いーやじゃー!」


 ブリブリブリッ!


 異音が鳴り、異臭が漂った。


「アンパン野郎がしかぶりよ脱糞したったがー!」


「しかもパンツの中にー!」


「何しとる、早く確保しろー!」


 デカ長が叫ぶが警官たちはジャンキーたちを遠巻きにしたまま躊躇ちゅうちょしている。


 その間にアンパン野郎は脱糞パンツを脱いで手に持ったかと思えば、


「あーん、パーンツ!」


 掛け声とともにすごい勢いであん入り脱糞パンツをぶん投げた。


 時速200キロは出ていると思われたそれは、包囲していたユキノリ巡査長の顔にもろにぶち当たった。


 ユキノリは(糞まみれで)死んだ。


「アンパン野郎! 新しいパンツよ!」


 タバコ娘がどこからか取り出した、糊の十分に効いたパンツをブーメランのように放った。


 アンパン野郎はそれを空中で発止と受け止めて履いた。


「そーんなんはー、すーはー、すーはー、いーやじゃー!」


 ブリブリブリッ!


「いかん、発砲を許可する!斉射ー!」


 デカ長の号令一下、警官たちが腰のニューナンブM60を引き抜き発砲した。


 パン!パン!パン!


 パン!パン!パン!


 anパン!jamパン!curryパン!


 何発かは確実に命中したはずだが、アンパン野郎は何のダメージも感じてない様だ。


「すーはー、そーんなんはー、すーはー、効ーかねー!」


「まずい、退避!総員退避ー!」


「あーん…」


 アンパン野郎が再びあん入り脱糞パンツを投げようとしたその時、一発の銃声と共にアンパン野郎のもう片方の手のビニール袋が破れ飛び、シンナーがアンパン野郎の体と床に飛び散った。


 振り向くと、サングラスを掛けた大紋だいもん課長代理がレミントンM31改を構え、その銃口からは、ひと筋の煙が立ち昇っている。


「お、オデのあんぱんがぁ…… ぉぉぉおにょれ、ぽにょれ……」


 アンパン野郎が再びあん入りパンツを振りかぶる。


 銃声がもう一度響いたかと思うと、タバコ娘がくわえていたマリワナタバコが弾け飛んで床に落ち、こぼれたシンナーに引火した。


 火はみるみるうちに床に散らばるシンナー伝いにアンパン野郎へ迫っていく。


「ア、アンパン野郎!逃げてー!」


 タバコ娘の叫びも空しく、ボッ!という音がして、アンパン野郎の体は炎に包まれた。


 ・


 懸命の消火活動により無事、火は消されたが、アンパン野郎は焼きアンパンになった。


 タバコ娘とシャブ親父は軽いやけどだけで命に別状なく確保された。


「ワシはなーんにもしてないよー」


 シャブ親父は何が起こったのか、最後までわかっていない様子だった。


「大紋課長代理、ありがとうございました。

 あの動きの中でくわえタバコを打ち抜く腕もさることながら、銃弾の効かないアンパン野郎を火攻めにした知略には感心しました」


「長さん、ガンジャ、遅れてすまない。

 それと、自分が狙ったのは2発ともあいつのへそだったんだよね、アンパンだけに、ははははー、面白いだろ、ははは、あはは、はぁ……」


 渾身のジョークが受けず、大紋課長代理は不満げだった。


 ・


 21世紀も1/4四半世紀を過ぎたころから、地球の各地で異様な現象が発生し始めた。


 この世界のものとは思われない、不思議な人々、動物、事物が、世界各地で頻繁に目撃されるようになったのだ。


 イギリスでは、額に傷のある少年が魔法のような不思議な術で人々にお辞儀を強要し、インドでは頭部が象になった人間が村々を破壊して回り、フランスでは突如、高さ1kmに及ぶ巨大なバオバブの木が出現した。


 ルーマニアでは若い女性の首に吸い付く変態が現れ、ドイツでは7人ほどの極端に背の低い小人集団が若い女性を拉致しようとする事件が頻発し、アメリカでは沿岸に突如、多くの島が浮上したと思ったら、竜が現れ共食いを始める始末。


 日本も例外ではなく、朝、玄関の前に栗や山菜、山ぶどうの実が置かれていたという微笑ほほえましいものから、月の使いと称するUFO未確認飛行物体に女性が拉致されるという怖いものまで多くの事件が世間を賑わした。


 これらの事件の中で、意思の疎通が可能であった人や動物、あるいは剣や盾などの話によれば、彼らは皆、この地球とは別の世界に属する異世界人・物らしく、彼らの世界に起きた宇宙規模の異変によりこちらの世界に飛ばされ、何らかのえにしを持つ土地に出現したものと推測された。


 留意すべきは、これら異世界人たちの世界は剣と魔法のファンタジーな世界であるということと、こちらの世界でも彼らのスキルや魔法はほとんどが有効であるということである。


 イギリスや日本は縁のあるファンタジーの来訪が特に多いようで、異世界人の出現にいとまがないのは、さすがファンタジー大国と言われるだけのことはあると評されている。


 このような状況下で、日本に来た異世界人・物にかかわる犯罪を取り締まるため、急遽、捜査第十ファンタジー課が創設されたのであった。


 ・


 事件の整理がひと段落し、僕は経理課で必要経費の申請をしていた。


さんねー、漢字はどう書くの?」


「えーと、オオキな植物のアサがハえる、あと普通のタローです」


「……、たいま はえたろう?」


 経理の女性が眉をひそめ、僕の顔を見る。


 エスダブ携帯無線が鳴った。


「ガンジャです、どうぞ」


 経理の女性の眉間のしわが深くなる。


(ガンジャ、中央公園に猫型ロボットのファンタジーが現れた。

 ゴリとPCパトカーで落ち合って向かってくれ、以上)


 何故かにらんでくる経理の女性に断りを入れて、僕はPCの待つ駐車場へ急いだ。

                           (了)








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