1-6話:祈りを捧げる殺戮人形

 三神像の前で語らう五人のもとに、ふいに一陣の風とともに現れたのは、一抱えもの色とりどりの花を抱えた青年だった。


 深い緑の軍服に身を包み、鋭い吊り目とギザギザの歯が印象的な男――名はリュード。β型のドールズである。


 彼は一瞥だけをジェンたちに与え、低く短く「よう」とだけ挨拶を投げた。


 リュードは島のどこにも腰を落ち着けず、常に孤独な巡回を続けている。自らを「殺戮人形」として造られた存在であることに誇りを抱き、戦闘に対する意識は誰よりも鋭い。「平和なんて退屈だ」と口にするが、決して無意味に暴れることはない。彼が求めているのは、純粋で、誤魔化しのない「戦い」だった。


 そのため、今朝の爆発音が彼の仕業であったことを、誰もが理解していた。


 そんなリュードの隣には、もうひとりの青年がいた。黒いロングコートを羽織り、日に焼けた肌と穏やかな目元が印象的な男――名はウィル。α(アルファ)型のドールズであり、β型と無個性な量産型であるζ(ゼータ)型に支持を出す司令塔の役割を担う。

かつての戦争時代には圧倒的なカリスマ性と戦略眼をもって仲間たちを率い、「五日で数百万人を葬った」とまで言われる存在である。


 今は島の中央部、「中央ラボ」と呼ばれる巨大な研究所に一人で暮らし、周囲に菜園を拓いて野菜を育てている。その野菜は、ジェンの作るトマトサンドの具材としても提供されているのだった。


 彼の両腕にも、やはり花が抱えられている。


「君たちも来ていたんだね」


 ウィルは柔らかな声で微笑みかけた。


 その腕に抱えられた花々に、テルルの目がぱっと輝く。


「わあ……すごい。きれいな色、いっぱい……!」


 ウィルはふとジェンの方に目をやり、冗談めかした声で言った。


「一本あげるよ。テルルに似合いそうな花を、ジェンが選んであげて」


 ジェンは一瞬戸惑いながらも、そっと花の束に手を伸ばし、薄水色の一輪を選んだ。


「……これがいいかな。はい、どうぞ」


「ジェンが選んでくれたの? 嬉しい! ありがとう、ウィルも!」


 テルルは頬を紅潮させ、花を胸に抱えてにっこりと笑った。その微笑みに、ジェンも思わず表情を緩める。


 そんな様子を見ていたレミナが、すかさず声を上げる。


「ずるいー! 私も欲しい!」


 彼女は軽やかにデューラとオルダの元へ駆け寄り、両手を差し出した。苦笑しつつ、デューラはオレンジ色の花を、オルダは柔らかなピンクの花を選んで渡す。レミナはそれらを抱えてはしゃぎ、彼女の笑顔と笑い声がその場の空気を一層明るく染めていく。


 一方で、リュードは静かに三体の像のうち、リディナシエ像の前へと進み出た。一輪一輪、花を丁寧に手向けていく彼の眼差しは、その像にだけ向けられていた。


「リディナシエ様のこと、好きなの?」


 ジェンがそっと尋ねると、リュードは遠い記憶をたどるような眼をした。


「ああ……どこかで、会った気がするんだよな。高笑いしてて、やたら強くて。不思議だろ? 俺たちドールズって、記憶は失わないように作られてるのに。……まあ、戦争は長かったし。記憶データの一部ぐらい、壊れてても不思議じゃねえか」


 そう呟くと、彼は片膝をつき、静かに祈りを捧げた。


 続いて、ウィルもまた、ヴァルキネス像の前に進んだ。優しい微笑みをたたえながら、手にした花を捧げ、手を合わせる。


「ヴァルキネス様って、かっこいいよね。……ボク、好きなんだ」


 その背後では、レミナが花を振り回しながら笑い、リュードやオルダを巻き込み、場の賑わいが増していた。


 そんな中、テルルがふと立ち止まり、真剣なまなざしでジェンに問う。


「ねえ……ジェンの像には、花をあげないの?」


 その一言に、その場にいた全員の視線がテルルに向けられた。


「ジェンの像、なんだか寂しいよ。私、あげたい。ジェンに似てる人の像にも、お花……」


 ウィルはその言葉にそっと頷いた。


「ジェンの像……つまり、ジェナリウス様だね。ボクはヴァルキネス様の信者で、リュードは熱心なリディナシエ様の信者だからね。確かに、ジェナリウス様に花をあげる人は居ないんだ。……花畑の場所、教えてあげるよ。ジェンと一緒に探しておいで」


「うん!」


 テルルはぱっとジェンの手を取ると、うれしそうに駆け出した。その小さな後ろ姿を、皆が穏やかな目で見送っていた。

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