竹取物語~千年の追憶~

山下ともこ

第一章:千年の月より

語り:かぐや


月の宮から見下ろす地球は、今もなお青く輝いている。

けれど、あの頃とは違っていた。


地上には光の筋が幾重にも走り、空には銀の破片――

人工衛星やロケットの残骸が蜘蛛の巣のように絡みついている。


かつて清らかだった空は、今では濁りを帯びて見えた。



千年という時が流れた。


私が地上にいた頃、人々は夜空を見上げ、月を神秘の象徴として仰いでいた。


けれど今では、ただの「天体」として数値に換算され、

冷たい機械の眼で覗かれている。


一度、人がこの月に来たことがあった。

だが、それはほんの皮膜に触れただけの世界。

私たちの住まう「真の月の都」は、

次元すら異なり、彼らはその入り口にすら届かなかった。


帝――


あの日、あなたに託した不死の薬。

それは、あなたへの愛であり、祈りでもあった。


永遠の命を得て、いずれ高次元の扉を開き、この月に来てほしい――

そんな想いを込めて、あなたに渡したのに。


けれど、あなたはその薬を火にくべ、灰にした。

「あなたのいない世で、永遠に生きることなど出来ない」と言って。


……私は月から、ずっとあなたを見ていた。

あの時、もしすべてを語ることが許されていたなら――


けれど、未来を語ることは禁じられていた。

人が高次元に至るには、自ら“気づく”ことでしかたどり着けない真理があるから。


千年を経た今も、私は夜空に、あなたの面影を探してしまう。

もしも、帝があの薬を飲んでいたなら――

きっと「真の月の都」に辿り着ける魂であったのに。



続く~第二章へ~




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