ハピネスブレイク

鵲三笠

プロローグ(全4話)

第1話 パン屋の娘と王子様の出会い

エルダリア王国の結婚式場で二人の美男美女が神父の前に立っていた。

招待された王国の貴族が二人の背中を見つめる。


「まさかレオナール様が庶民とご結婚なさるとは」

「私も驚いた。まさかあのような美しい女性が庶民にいたとは」

「さぞかし、大切に育てられたのだろうな。ジュリエッタ様は」


神父が真っ直ぐな目で二人を見つめる。


「では、誓いのキスを」


レオナールがベールをめくると、ジュリエッタの美しい顔が露わになる。

ジュリエッタの両頬に手を添えると、唇を近づけた。



―――数ヶ月前。ジュリエッタは実家のパン屋でレジ対応をしていた。


「ありがとうございました!またのお越しをお待ちしています」


パンを買った客に深々と頭を下げる。


「ジュリエッタ。そろそろ休んでいいぞ」


父親のロイズが焼き上がったパンを持ちながら、声をかける。


「ありがとう!でもお父さんとお母さんはパン作りで手一杯でしょ?今はお客様も多いからその間は働かせて」

「そうか?無理はするなよ?」

「うん!」


店のドアが開き、ベルがカランコロンと鳴る。


「いらっしゃいま……」

「ここが噂のパン屋か」


エルダリア王国の王子―――レオナールが入店する。


「レ、レオナール様!」


パンを選んでいた客がざわつくと、ロイズとジュリエッタは慌てて頭を下げる。


「いらっしゃいませ!レオナール様!」

「やめてくださいよ。僕は客なのでここでは王子として扱わないでください」

「しかし……」

「最近、騎士たちの間で話題になっていて、庶民からの評判も高いので気になって入ってみたんです」

「あ、ありがとうございます!」

「とりあえずおすすめのパンを全部貰っていいですか?」

「は、はい!ジュリエッタ!手伝ってくれ!」

「う、うん!」


ロイズとジュリエッタはおすすめのパンをトレイによそっていく。


「こちらでよろしいでしょうか?」

「ありがとうございます。お値段は?」

「いえ!王子からお金を徴収するわけには……」

「いえいえ、僕は客なんですから。商品を買うにはお金を払わないと」

「……よろしいのですか?」

「もちろん!」

「銀貨4枚です」


レオナールは財布から銀貨を4枚払う。


「ありがとうございます。帰ったら美味しく頂きます」

「はい!ありがとうございました!」


レオナールを見送ると、ロイズは気が抜けたように息を吐く。


「緊張したなぁ?ジュリエッタ」

「うん。まさか王子が来るなんて夢にも思わなかった」

「庶民の店に王子が来るなんて普通は思わないからな」


二人はレオナールを運ぶ馬車が見えなくなるまで見つめていた。



翌日。ジュリエッタが焼き上がったパンを並べていると、ドアが開く。


「すみません。まだ開店前で……」


ジュリエッタは入ってきた人物を見てハッとなる。


「すみません。開いていることに気づいていなくて……」

「レオナール様……いえいえ!どうぞお入りください!」

「ありがとうございます。でもここでは様をつけないで呼んでくれると嬉しいです」

「では……レオナールさんと呼んでいいですか?」

「はい!」


レオナールの笑顔にジュリエッタはドキドキする。


「昨日おすすめしてくれたパン。全部美味しかったです」

「ほ、本当ですか⁉」

「今日は昨日買わなかったパンを買いたいと思いまして。いいですか?」

「もちろんです!」


それからレオナールは開店時間になると、毎日たくさんのパンを買う常連客になった。

王子が毎日利用していると話題になり、たくさんの庶民が店を訪れるようになった。


「レオナールさん。今日もありがとうございます」


ジュリエッタは袋にパンを入れると、レオナールに渡した。


「ここのパンは美味しいですから。それに……」


レオナールは恥ずかしそうに言葉を続ける。


「ジュリエッタに会うのが……毎朝の楽しみってのもあるので」

「……!!!」


その言葉にジュリエッタは赤面する。


「もしよかったら……今日の夜に食事とかどうですか?」

「ぜ、ぜひ……」

「ありがとう。じゃあ夜に迎えに行きます」


レオナールは嬉しそうに店を出た。


(い、今のって……でも王子に限ってそんなこと……)


レオナールの言葉にジュリエッタはドキドキしていた。



―――これはパン屋の娘と王子様が夢のような恋をする物語である。

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