第2話 ロックなんかつまんねー

僕は考えたら、クソ生意気なガキだった。

出かけたりする時は、父親が運転し、ほぼ車内の音楽は、母親が嫌がらない範囲の洋楽を強制的に聴かされる。

父親はジャズ好きだけど、バップやフリージャズからは離れた時期だから、他を聴いた。

小さい頃は、僕らに寝て欲しい時は、レゲエ。

ボブ・マーリーからサード・ワールドとか、ジャネット・ケイは気に入ってたから、よく流れた。


音楽教室やピアノレッスンの送迎は、母親。

母は「最近の音楽聴いてないから」と、ラジオをかけた。

が、生憎夕方の時間には、洋楽の番組がなかったから、仕方なくJポップの番組。

それで大塚愛や、P’Zが好きになり、アルバムも聴いてたり。


小学校一年の終わり、母親に聞かれた。

「大きくなったら、何がしたい?何になりたいの?」

幼稚園時代は、小麦粉粘土を練るのが好きで、「パン屋さんになりたい」と言ってたけど、まあ本気にはしてなかったか?で。

小一の終わりの答えは

「自分で作った曲を皆んなの前で弾いて、聴いて貰う作曲家か、ロボットかロケットを造る人」だった。


曲を作って弾くは、多分久石譲とか、坂本龍一の姿を見て、漠然と考えたイメージだったのか?自分でもよくわからないけど。

ロボットは、結果そんな大学の学科にしたから、どっちも幼い時代から、やりたいことは、そう変わらなかった。


小学校からの夢を形にした、友達がいる。

バンドも一緒にやったけど。

その夢は、「某社に入ってゲームを作る人になりたい」と、当時の男子は全員皆んな薄っすら憧れてた仕事を、今やってる。

子供にも人気な、圧倒的に知名度が高い、ゲーム機のあの会社。

叶えたコイツは、ある意味めちゃくちゃ凄いと、尊敬してる。そのために努力し、勉強し続けた奴でもあるし、一度も気持ちがブレて無いのが、一番尊敬する部分ではある。


小学校時代は、クラッシックのピアノ曲だけでなく、オーケストラ曲や、ピアノ協奏曲も聴いたし、好きだった。

母親が、ポップスのラジオを聴いていた時、「他のに変えて欲しい」と言ったことがある。

多分、四年生ぐらいの時期。

「何故?ポップスは嫌い?」と聞かれたから、つい答えた。

「繰り返しばっかりで、曲は短いし、構成も単純過ぎて、つまらない」と。


母親は、クラッシックマニアを育てたい、気持ちは全くなく。

「それぞれに。良いところはあるのに」と言いながら、僕が大好きなラフマニノフとかに変えてくれたけど。

母は家族で、音楽の守備範囲は一番広い。

クラッシックから、日本のバンドまで何でも聴く。

強いて自分から、あまり聴かないジャンルを挙げるなら、世界の民俗音楽か?ぐらい。

でも、テレビで雅楽をやってたら、じっと聴いてたりはするし、津軽三味線は好きらしいけど。


とにかく僕は中学に入るまでは、とにかくポップスを小馬鹿にするような、生意気なクソガキだった。

たまたま、小学生の終わりあたりから、何故か父親が今まで毛嫌いしてた、日本のポップスを聴き始めた。

きっかけは、どうやら会社の飲み会で、カラオケで歌えて、他の人も知ってる曲を探すのが目的で。

そこから、父親はCDをレンタルしまくり、車ではほぼ邦楽しか鳴らないように。


四十歳過ぎのオッさんが、アイドルやダンスボーカルグループの曲を、練習するのか?だったけど。

母にあれこれ聞きながら、父は福山雅治とかも聞きだして。

おかげで何故か、妹は福山雅治が嫌いに。

顔もスタイルも好みでは無いらしく。

声があまり気に入らないのと、歌詞が気に食わなかったよう。

特に。女性に提供した曲の、セルフカバーの歌詞、女性が「私恋をしている」と歌ってたりするのが、気持ち悪いとか。

湘南乃風の「パスタを作って美味いから、好きになるの」も、お気にめさなかったようで、「馬鹿みたいな歌詞」とか言っていて、家族で爆笑した。

小学校高学年女子に、こんな突っ込みを入れられているとは、まさか思ってないだろうし、ファンには怒鳴り込まれそうだけど。素直な感想だから、仕方ない。


クソガキも中学生になったら、ポップスを密かにに聴き始めた。

今まで小馬鹿にしてたから、親にバレ無いように、ヘッドフォンをしたりして。

何故か清木場さん時代のエグザイルにハマり。

小馬鹿にしたから、コソコソやったけど、自分の部屋も無いから、すぐにバレた。


ピアノにひと部屋使ったら、自分の部屋は諦めるしか無い。3LDKだと。

勉強もCD聴くのも、リビングのテーブルの端で。

母には、エグザイルの写真を、透明な挟める下敷きに入れたのは、すぐに見つかり。

「えー。エグザイルとかなら、もっと良いバンドも音楽もあるのに〜」と笑われた。

誰にでもある、黒歴史ってヤツで。


言われなくても、そりゃそうなのはわかるし、エグザイルが、下敷きに入ってた時間は短かった。

一年の後半からは、家にあるCDやテープ、テープからダビングしたMDを、ひたすら順番に聴いてみた。


60年以降ぐらいの、色々な洋楽があった。

この当時発掘して気に入ったのは、スティービー・ワンダー、アース・ウインド&ファイヤー、ジャミロクワイ、ドナルド・フェイゲンあたり。

だから、60年〜90年ぐらいまでの、古い洋楽が、僕の根っこにはある。


中2になって、家のアコースティックギターを。少し練習し始めた。

ピアノで指先が鍛えられてたか?で、弦を押さえても、さほど痛くは無かった。

ギターを弾き出したら、やっぱりバンドがやりたくなる。

ピアノは、変わらず練習はしたけど、先生に聞かれて、ピアノで受験するつもりは、無い話をしたら、変わった曲をやらせては貰った。


訓練もあるから、ハノンやスケールや、和音の練習、ツェルニーも三十番は割合ちゃんとやりながら、色々なタイプの曲をやらせて貰った。

先生が弾きたくなったからと、モーツァルトのピアノコンチェルトも。お楽しみでやれた。

コンクールも、自由に曲が選べるのにしか、出なくなり、自由にラフマニノフとかは弾けたり。


中二以降は、まず同じようにポップス好きになった一平と、ポップスの話をした。

彼も父親のギターを弾くようになり、やりたい楽器はギターらしく。

が、彼の難点はあまり最近の音楽に、興味が無いこと。

お父さんが好きで、家にある音源が古いのしか無いし、ラジオも聴かない。

まずはビートルズは良いとしても。

他はRCサクセション。


二人では、バンドに誰を誘う?の話をよくした。

とにかく、ベースとドラムがいないと、バンドは始まらないのは、二人とも理解していた。

一からやると、ヤル気が無いと難しい楽器ではある。

後にバンドのサポーターに、なってくれた、潔はピアノは習ってたけど、毎日ちゃんと練習では無く、高学年でやめて、自分は音楽は不向き、苦手と決めつけて楽器を勧めても、頑としてやろうしてくれない。

バンドは楽しそうだから、ロゴを誰かに頼むとか、マネージャーみたいな形なら、混ざりたいとか。


楽譜が読めるだけで、かなり有望だったけど、やりたくないの気持ちの奴を、無理にさせるのは難しい。

ならばと、音楽系部活から、探してみることにしたけど、オーケストラ部は女子オンリーに近い。

吹奏楽部も、状況は同じような感じ。


が、吹奏楽の男子は、打楽器とユーフォの担当な上に、僕とは仲が良い。

打楽器担当は、例の小学校からなゲーム好きの同級生の望。

人見知りするし、とにかく無口。でも、何故か僕とは話してくれる。

小学校も同じだし、受験も一緒に誘って行った仲だし。バンドの話をしてみた。

ドラムは叩いたことは無い。

でも、譜面を見たら、小太鼓なら叩けると。

「マジでお前が必要だから、やってくれないか?」と口説き落とした。


「バンドは本当に出来るの?」と言われた。だから、「そのためにも、雅也が必要なんよ。ユーフォはベースと同じように、低音で曲を支えるから。アイツマジでベースやってくれないかなぁ。どう思う?」

「言いたいことはわかった。なら、誘ってみたら?航太が話したらノッて来るかも?雅也がやるなら、僕も考える」と言われた。


ベースが確保出来無ければ、ドラムも無いと言う話になり。

雅也に話をした。

「バンド!」には興味を示したけど、

「ベースをやって欲しい」には、黙った。

「皆んなで集まって練習するだけでも、楽しいやん?」とか、「青春!な感じで良くないか?」とか、いい加減な感じしか浮かばないけど、頑張って口説いた。

二人はもう少しで「うん」と言いそうだったけど。


吹奏楽はコンクールで、入賞出来るかどうかのボーダーあたりで、それなりに真面目にやってたし、練習も毎日あるから、練習時間をどうするか?は問題で。

ひとまずは、楽器が弾けるまでは、家で基礎練習するしか無いけど、楽器も無い。


ギターの一平は、お年玉でエレキを買うから大丈夫にしても、二人はどうする?

二人で毎日ぐらい、頼んだ結果、家の人に相談してみると言ってくれた。

特にドラムは、こっそり練習って、訳にもいかない。

結果をドキドキしながら聞いた。

二人は頭も良いし、勉強も出来るから、話し合ってくれたようで。

親には「吹奏楽にも役にたつから。音楽だとエリートに近いあの二人が、誘ってくれてるなら、やってみたい」とか。話して説得したようで。


ベースの雅也は、おばあちゃんたちと同居。

おばあちゃんは楽器が必要ならと、お小遣い?お年玉の先渡し?で、お金をくれたらしく。ドラムの値段が知りたいから、日曜日に、三人で出かけた。

僕がベースを調べまくり、選ぶのを手伝った。

楽器を買うだけで、テンションは上がった。


ドラムのほうは、小学校時代は家にも行き来していて、お母さんも僕をよく知っているから、「航太君が誘ってくれたなら、吹奏楽にも役立つなら、やったら?」と喜んでくれた。

ドラムは置けるけど、叩くとうるさいから、電子ドラムになったけど。

「やるならちゃんと習いなさい。吹奏楽の顧問も言ってたから、良い機会よ」と、レッスンまで付いてきた。

お母さんは、変わった意味で、ぶっ飛んだ人だった

四人でバンザイ!をした。


でも、難問はそこからだった。

何の曲をやるのか?

ベースとドラムの二人は、ほぼロックもポップスも聞かないし、知らない。

普通は、やりたい曲がまとまらなくて、崩壊するのがバンド活動。

けど、僕たちは「やりたい曲がわからない」ことが、問題だった。


おまけに、誰か歌える人いるか?と考えると、ベースとドラムは、今から一からスタートだから、歌う余裕なんか無い。

なら、ボーカル無しの曲にするか?

そんな、曲だと学校の皆んなは、盛り上がるのか?

ただでさえ、日本のロックも聴かないような、真面目な同級生や下級生しかいないのに、歌まで無いとは。


ボーカルをやりたい、自信がある奴を、聞いて回ってみた。

マネージャーは、当然「下手だし、嫌」が答え。

僕は、声が高めで、ロックのボーカルには向かない声なのは、自分でわかってる。ソフト過ぎると言うのか。

ギターの一平も同じ。


何とかメンバーが、揃ったけど、難問は山積のまま。

選曲も、二人の初心者が、どこまで上手くなるか?弾ける曲を選ぶか、編曲出来る曲を選ぶしか無い。

先行きはなかなか見えないバンドが、動き出そうとしていた。













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