5 刺客
◎
ソマリナから南西に
「遅かったな! 待ちくたびれたぞ」
三人の司教たちは矢継ぎ早に責め立てた。
「一体どうしたんだ? とにかく事情を聞こう」
ゴーツは三人から、殺人鬼の侵入とそれにともなうソマリナの封鎖、殺人鬼の指名手配と暗殺指令、そして大司教の避難(逃避とも言えるが)の報告を受けた。我々を信用しているのか、いないのか、大司教自身の具体的な居場所は知らされていない。新たな指示を出す時は
「それで殺人鬼の情報は手に入ったのか?」
ゴーツが尋ねると、すでに手配書が配られていて、待っていたとばかりに司教の一人が差し出した。
「殺人鬼の名前はエレナ。年齢はあと半年で十五歳だ。過去に真夜中に徘徊して、出会い
司教の一人が司教杖をナイフに見立て、メッタ刺しにするようなジェスチャーをして話した。
ゴーツは似顔絵の娘をどこかで見たような気がしたが、すぐに意識から消えた。四人の司教たちは丸投げされたこの状況を、自分の出世にどうつなげようかと考えていた。
とにかく殺人鬼エレナを見つけて殺す。そして手柄を自分のものにする。勝負の舞台はゴーツに分があるが、残る三人の司教は刺客部隊を一足先にソマリナに潜入させていた。ゴーツは付き人のカールに、急いでエレナ暗殺の指示を出した。
◇
日が傾いてきた。私たちは検問を魔法で
「手っ取り早くアドネルの足取りをつかまないと面倒な事になりそうね……」
私はため息をついた。
「俺に
白猫を抱いた男がニヤリと笑って言った。
「どういう事?」
「俺は猫になって知ったんだ。野良猫たちは人間以上に情報通だって事をな」
「*レスティトイ*ナムジーク***」
私が呪文を唱えると、目の前の男が消え、白猫だけが残った。白猫は一言ニャアと鳴いて走り去った。
夕闇が迫っていた。魔法は使えなくなるけど、闇は身を隠すには都合がいい。白猫がアドネルの情報を持ち帰るまで、敵に見つからないようにやり過ごす。私は周囲を警戒しながらエレナに目を向けた。
「エレナ、そろそろ目を開けても大丈夫よ。いざとなったら敵から逃げないといけない。走る準備は出来てる?」
「成るようになるしかないじゃない」
ひねくれた表情でエレナは言った。
▽
白猫は教会周辺を駆け巡り、出会う猫全てにアドネルの特徴を伝え、捜索を依頼した。報酬のエサはクレアに約束させたので、何とかなるだろう。
白猫は落ちぶれる以前の、平穏だった頃の記憶を思い起こしていた。幸せだった家族の崩壊は、ある修道女の訪問が発端だった。彼女は妻に、何か心に秘めている悩みはないかと尋ねた。我が家は大金持ちではなかったが、そこそこ良い暮らしをしていたので、妻は今の生活にとても満足していると笑っていた。
しかし修道女が訪問の数を増やすにつれ、妻の態度が徐々に変わっていった。子供の病気、夫の不貞の疑惑、世の中の悪――。修道女は全ての元凶が、妻の前世の罪にあると説いた。救われるためには、悔い改め、神のために奉仕し、祈りを捧げ、そして継続的な御布施をする事。妻は瞬く間に
気づいた時には、妻も子も金も家も――白猫は全てを失っていた。
◆
闇が訪れた。昼間の灼熱が嘘のように、厚い雲が月光を覆い、周囲の視界を隠していた。ぽつりぽつりと降り始めた雨が、少しずつ地面を濡らし始める。
あたしとクレアは、何とか追手を
背にした冷たい壁が、あたしに絶望感を与える。様々な武器を持った男たちが、じわじわと距離を詰めていた。
「エレナ、出来る事をやるしかないわ。武器は長いのと短いの、どっちが好み?」
クレアはゆっくりと息を吐いて、あたしに言った。
「長いほう……」
土砂降りの雨が、周囲の視界と音をかき消した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます