第5話 「元同僚(勇者)が盗賊にボコられて俺に助けを求めてきた件」  

 スライムを3匹倒して、ちょっとだけ自信がついた俺は、小屋の裏に勝手に“修行用フィールド”と名付けた空き地で、今日も棒を振っていた。




「──よし、今日はスライムが3秒で倒せた。俺、成長してる!」




 異世界生活5日目。食事も寝床もなんとかなるようになった。


 記録スキルのおかげで、調理・戦闘・サバイバル全部レベルアップ中だ。




 だが、そんなある日──




 




 バタンッ!!!




「おい! 誰かいないか!? 助けてくれえええ!!!」




 




 なんと、俺の小屋のドア(ボロい)をぶち破って、ボロボロのイケメンが転がり込んできた。




「……え、課長?」




 いや、違う。


 元同僚の佐藤(営業)だった。


 転生後は、神から「勇者」クラスを与えられた超エリート組。


 それが今──顔は腫れ、服は破け、靴は左右違い、鼻水垂らしてうずくまっていた。




「た、助けてくれ……た、助け……て……」




 




 おっさん、数秒間フリーズ。




「え? ざまぁすぎない?」




 




【数時間前:記録再生モード】




 記録スキルで覗き見していたログによると、彼ら勇者パーティ(笑)は、


「この辺の森の盗賊団を退治して報酬を得ようぜ!」とノリで突撃。




 なお、全員がフル装備のくせにスキル頼りきりで、索敵も罠確認もせず進軍。


結果──




 罠に引っかかり、囲まれ、ボコられ、装備を奪われ、仲間とはぐれ、


 佐藤だけがパンイチ寸前で逃げ延びてきたらしい。




「……っていうか、俺を追放したの、お前らだよな?」




「そ、それはその、リーダーの田島が……俺は、止めようとは思ったんだけど……!」




 




 言い訳が始まった。


 懐かしい。


 派遣切りのときも、こうやってみんなして言い訳してた。




「ははっ、そうですか〜〜〜〜〜! おっさんは覚えてるぞぉ〜〜〜」




 俺は笑顔で言った。目は笑ってない。




 




 でもまあ、ここで見殺しにするのは俺の主義に反する。


 スキル《記録》の力を使って、盗賊団の動きを観察し、拠点の構造も確認。


 ついでに奴らの持ってた剣術・弓術も記録済み。




「仕方ないな。おっさんが助けてやるよ。条件付きでな」




「な、なんでもする! 命の恩人だ! 助けてくれ!」




「よし、じゃあ後で“お前が俺を追放して後悔してる録音”と“謝罪”を記録するからな」




「えっ……?」




「は? なんでもするって言ったよな?」




「う……うん。わかった。すみませんでした……おっさん、いえ、高野さん……」




 はい、録音完了。これ、後で使えるな。たとえば人前とかで流してやろう。




 




 盗賊団の拠点では、記録再現で再現した“盗賊の動き”をなぞりながら、気配を殺して侵入。


 罠もすべて《記録》済みなので回避余裕。




「――おっさん、行くよ」




>《再現:盗賊の短剣術(中級)》


>《再現:気配遮断・忍び歩き(初級)》




 




 まるで盗賊そのものの動きで奇襲をかけ、


 あっという間に盗賊団の頭をボコり、装備を回収、


 ついでに正社員パーティの落とした武器も全て回収してやった。




 結果:




「……え、あの人、何者……?」


「ただの派遣だったんじゃ……?」




 あとの祭りである。




 




 そして、盗賊団の討伐報酬もこっそり俺が受け取った。


 記録スキルで“契約書の署名”を再現したら、誰も疑わなかったからな。


 これ、たぶん法律面でもイケる。




 




 帰り道。




 佐藤「ほんと、助かったよ……俺、これからはおっさんを尊敬するよ」




 俺「へえ、今さら尊敬?」




 佐藤「うん。だって、スキルなしだと思ってたのに、まさかあんな無双するなんて……」




 俺「いや、俺、《スキルなし》じゃなくて、《なんでも記録するスキル》だって言ったよな?」




 佐藤「え? ……あ、あれってネタじゃなくてガチだったの……?」




──はい、ダウト。




「お前、やっぱり今も俺のことバカにしてたな?」




「い、いやあああああああああああ!!!」




 




 スキル再生モードで、佐藤の悲鳴を録音。


 これも後で使おう。




 




 次はどいつが泣きついてくるか。


 今のうちに録音用フォルダ、増やしておくか。




(第6話へつづく)

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