第43話:荊州・江東の完全制圧
呂布が地に墜ちたという報は、瞬く間に荊州と江東の全土に駆け巡った。その衝撃は、まるで天が落ち、地が震えたかのようだった。抵抗を続けていた残党勢力の将兵たちは、天下最強と謳われた呂布が敗れたという事実に、戦意を完全に喪失した。
「もはや、戦う意味はない……」
彼らの心には、そうした諦念と、趙雲という存在への抗いようのない畏怖が深く刻まれた。彼らは、趙雲軍が単なる武力で勝利したのではないことを理解していた。それは、趙雲がもたらした新時代の技術と、諸葛亮や鳳統といった天才軍師が練り上げた知略、そして劉備の「仁」が融合した、「時代」そのものの力だったのだ。
敗将の一人、陸凌は、自らの城の天守閣から、遠く白馬王朝の旗が翻るのを眺めていた。彼の心には、長年追い求めてきた「強さ」という価値観が、音を立てて崩れ去る感覚があった。
「……呂布様が、敗れただと……?」
彼は、密かに呂布を敬愛していた。その圧倒的な武勇は、彼ら武人にとって、畏怖の対象であると同時に、手の届かない憧れだった。しかし、その呂布が、一騎当千の武ではなく、「智」によって敗れた。その事実が、彼の武人としてのプライドを根底から揺さぶった。
「呂布様と赤兎馬に一度でも憧れたことのない者がいるか。だが、その呂布様が、白馬の若造に敗れた。もはや、戦は終わったのだ……」
陸凌は、遠くで囁かれる噂を耳にした。「呂布が死んだあと、馬が泣いたという噂が流れた」と。その一文が、彼の胸に深く突き刺さる。それは、武人として最高の死を遂げた呂布への哀惜と、そして自分たちに残された「時代の終わり」を告げる鎮魂歌のように響いた。
趙雲は、呂布との戦いの後、軍を二つに分けた。一つは、劉備、関羽、張飛、そして孫堅が率いる陸軍。もう一つは、孫策、孫権、周瑜が率いる水軍。彼らは、それぞれ荊州と江東の残党勢力を制圧するため、進軍を開始した。
しかし、その進軍は、血生臭いものではなかった。
呂布の敗死という衝撃的な知らせが、敵将たちの心を既に砕いていた。降伏を申し出る城が相次ぎ、趙雲軍はほとんど抵抗を受けることなく、荊州と江東の地を次々と統合していく。
その中で、かつては呂布を密かに敬愛していた将軍たちもいた。彼らは、呂布の敗死という、旧時代の武の終焉を目の当たりにし、深く打ちひしがれていた。
「……呂布様が、敗れただと……?」
「呂布様と赤兎馬に一度でも憧れたことのない者がいるか。だが、その呂布様が、白馬の若造に敗れた。もはや、戦は終わったのだ……」
敗将の一人が、そう呟いたという噂が、投降した兵士たちの間で囁かれた。彼らは、呂布の敗北に、戦乱の終わり、そして一つの時代の終焉を感じていた。
「孫呉の将兵たちよ!これより、我らの故郷、江東を完全に平定する!そして、新たな時代の礎を築くのだ!」
孫策の力強い号令が、水面に響き渡る。彼の瞳には、故郷への熱い想いと、趙雲と共に天下を統一するという、確固たる決意が宿っていた。しかし、その決意の裏には、葛藤があった。それは、孫呉という「家」の夢を、趙雲という「天下」の大義に捧げる覚悟だった。
孫策は、弟の孫権と周瑜を前に語りかけた。
「趙雲の時代か……。俺たちは、もはや一地方の勢力ではない。“家”の夢を、天下の夢へと変える時だ」
孫権の胸には、複雑な感情が渦巻いていた。兄の理想を継ぐべきなのか、それとも時代の流れに従うべきなのか。彼の手は、気づかぬうちに、自らの腰に差した剣に触れていた。
隣で静かに聞いていた周瑜は、その葛藤を痛いほど理解していた。
「孫権殿、我々の才は、天下に預けられてこそ、真の輝きを放ちます。趙子龍殿は、我々の才を、惜しみなく天下のために使ってくれるでしょう」
周瑜の言葉は、孫権の心を動かした。彼は、兄の理想と、周瑜の言葉の「真実」を前に、ついに趙雲という存在がもたらす「必然性」を受け入れたのだ。
一方、陸路を進む劉備の軍勢は、関羽、張飛の圧倒的な武勇で、残党勢力の城を次々と陥落させた。彼らの「武」は、もはや乱世の最後の輝きを放つ、最強の矛となっていた。関羽の青龍偃月刀が振るわれれば、敵兵は次々と薙ぎ倒され、張飛の蛇矛が唸れば、敵陣は瞬く間に混乱に陥る。
しかし、彼らの戦いは、無益な殺戮とは無縁だった。
劉備は、降伏を申し出た将兵たちに対し、決して残酷な仕打ちはしなかった。彼は、彼らの降伏を受け入れ、彼らの命を救い、彼らの家族を安堵させた。その「仁」の心が、白馬王朝の統治に、確かな正当性を与えていた。
「子龍殿の力と、劉備様の仁があれば、この乱世も、間もなく終わる……」
投降した将兵たちは、劉備の温かさと、趙雲の圧倒的な力に触れ、そう確信した。
数週間後、荊州と江東の全土が、白馬王朝の旗の下に収まった。南方の制圧は、戦乱を最小限に抑えつつ、迅速に達成された。それは、趙雲が孫堅に「貸し」を作り、孫呉と平和的な合流を果たした、その「必然性」が実を結んだ瞬間だった。
天下は、ついに一つになった。
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