第4部:荊州・江東の制圧と「最強の武」との激突

第37話:中原の終焉、南方の夜明け

中原を制圧し、曹操軍の内部に深い亀裂を生じさせた趙雲軍は、ついに天下統一の最終段階へと踏み出そうとしていた。北の地で凍てつくような戦乱を経験してきた趙雲の目には、南方の夜空は、北のそれよりも遥かに星が輝き、その光はまるで新時代への希望を祝福しているかのようだった。澄み切った空気の中、遠くから聞こえる虫の音が、静かな夜を彩る。


趙雲の本陣では、諸葛亮、鳳統、そして孫呉を束ねる孫策、孫権、周瑜といった、新たな仲間たちが集まり、壮大な軍議が開かれていた。彼らの前には、中原の地図から荊州、そして江東へと続く広大な版図が広げられていた。それぞれの将の顔には、勝利への確信と、この戦乱を終わらせるのだという強い意志が宿っている。


「この荊州、そして江東を制圧すれば、もはや天下に我らの敵はいなくなります」


鳳統は、その言葉に確信を込めて語った。彼の瞳には、これまでの苦難を乗り越え、ついにこの地点までたどり着いたという達成感が満ちている。趙雲の策と、諸葛亮の知略が融合したことで、彼は自身の持つ「奇策」の才能を最大限に活かすことができていた。


諸葛亮は静かに扇を閉じ、趙雲へと視線を向けた。


「趙子龍殿。荊州と江東は、水軍なくしては制圧できません。しかし、我々には孫呉の水軍がいます。孫策殿、孫権殿、そして周瑜殿の力があれば、この地勢を味方につけ、敵はおりませぬ」


諸葛亮の言葉には、完璧な勝利への自信が漲っていた。彼の策は、これまで幾度となく趙雲を勝利へと導いてきた。その言葉に、誰もが深く頷いた。孫策は、その顔に兄貴分としての誇りを浮かべ、周瑜は静かに、しかし熱い眼差しで趙雲を見つめていた。


しかし、趙雲の心は、彼らの言葉に素直に頷くことができなかった。彼の心の中には、勝利への確信とは異なる、ある種の「違和感」が渦巻いていた。その違和感は、遠い地で猛威を振るう、「呂布」という男の存在だった。


(…天下に敵はいない…本当にそうか…?)


趙雲は、静かに地図の上にある長安へと視線を向けた。そこには、未だに不屈の闘志を燃やす呂布という、旧時代の最強の武が存在している。彼の武勇は、もはや人間の域を超えているとさえ言われていた。個の武力だけならば、関羽、張飛、馬超といった、我らの猛将たちをも凌駕するだろう。


そして、その最強の武が、趙雲が築き上げてきた新時代の騎兵戦術とぶつかったとき、果たして何が起きるのか。趙雲の胸には、期待と、そして張り詰めたような緊張感が広がっていた。それは、過去の馬術大会で、たった一つのミスで優勝を逃した悔しさにも似た、完璧な勝利への執念だった。


軍議が終わり、皆が散った後、趙雲は諸葛亮を呼び止め、静かに語りかけた。


「孔明殿。荊州と江東の制圧は、確かに我らの勝利で終わるでしょう。しかし、その勝利の先には、必ずや呂布との戦いが待っています」


趙雲の言葉に、諸葛亮は静かに頷いた。彼の顔には、既にその戦いを見据えているかのような、深い思考の跡が刻まれている。


「承知しております、趙子龍殿。呂布は、我々にとって最後の、そして最大の障害となるでしょう。しかし、我々はもはや、ただの武力に頼るだけの軍ではありません」


諸葛亮は、趙雲の瞳をまっすぐ見て、力強く語った。


「我々には、鉄鐙騎兵という新時代の技術があり、そして何よりも、皆が同じ『思想』を胸に抱いております。呂布は、旧時代の最強の武かもしれません。しかし、我々が目指すのは、旧時代を終わらせ、新時代を築くこと。この戦いは、必然的に起きるものです」


諸葛亮の言葉に、趙雲は静かに目を閉じた。彼の心の中の違和感は、確信へと変わっていた。この戦いは、避けられない。そして、この戦いに勝利してこそ、真の天下統一が成し遂げられる。


趙雲は、静かに立ち上がり、窓の外に広がる星空を仰いだ。彼の瞳には、荊州と江東の制圧という目前の勝利と、その先にある、最大の敵との激闘、そして、その先に待つ新時代への「思考」が深く焼き付いていた。


中原の風は、白馬王朝の勝利を告げると同時に、新たな戦乱の序曲を奏で始めていた。趙雲と呂布、二人の英傑による、最後の戦いの火蓋が、今、切って落とされようとしていた。

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