第40話 TVデビュー

その日の夕方のニュースで、ワンヘルスの会議の様子が放送されました。ワンヘルスの紹介というよりは、前田さんの畑の被害の様子がVTRで流れ、前田さんの悲痛な訴え、そしてポン子のVTRの一部と私の保護活動の訴えが、対立する形で編集されておりました。知事は、最初の挨拶のほんの一部が紹介される程度でした。




「あなた観て。私達やポンちゃんも映ってる」


「へーっ」




テレビに映る自分の姿を観るのは、恥ずかしい気持ちでいっぱいでございました。啓子も興奮気味でテレビにくぎ付けになっております。ここのところ、「こう言えば良かった」「あの質問にはこう答えれば良かった」と、猛省しきりです。でも、私共の動物やペットに対する理解は、ある程度は伝わった気がいたしました。




ところが、翌日からその反響の大きさに驚かされました。




啓子の携帯が鳴りました。取りますと、




「はい、沢井ですが」


「タヌキのポン子ちゃん可愛いですね。いつかまたSNSで紹介してください」


「ありがとうございます」




いくつか、動物の保護活動をしておられる団体から、感動の連絡が入って参りました。ところが、その後、事態は変化して参ります。




「お前のところはタヌキをテレビに出して見世物にするつもりか。元々自然に帰す気などないのだろう? サーカスにでも売ったら良いのでは」




返す言葉もございません。声の向こうも、言うだけ言ってガチャンと電話を切られてしまいました。




「作物を荒らすタヌキを家で飼ってはいけません。あれは害獣ですよ」


「ニュースを観ました。お年寄りがタヌキを飼っても良いのですか? 万一逃げたらどうします。もしも子供たちに危害を加えたら責任取れますか?」




この電話は、精神的に堪えました。付け加えますと、年寄りの私が飼うのはやめた方が良い、ということになります。タヌキの平均寿命が10年ですから、自分では飼えると高を括っておりました。後で掛かってくるほとんどの電話の主は、前田さんに賛成の立場でした。次第に、抗議の電話が大勢を占めて参りました。


-続-

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る