第4話 「この子は、タヌキです」

お話の再開です。




フェイスブックで、娘が送ってきた左右よく似た二つの顔の写真を見て、啓子が、




「まさかこの子、タヌキの赤ちゃんじゃないよね?」




と言いながら、二人とも「もしかしてタヌキかも」と思い始めたのです。


決定打となったのは、知り合いの動物園専門の外平獣医さんから届いたフェイスブックのメッセージでした。




「この子は、正真正銘の本土タヌキです」




――と、きっぱり。


その瞬間、二人は腹を抱えて笑い転げました。




もちろん、すぐにネットで調べました。




「おい、タヌキは“イヌ科タヌキ属”だってさ」




「へぇー、この子を見てたら、“イヌ科ひょうきん族”にしか見えないわねぇ」




啓子がそう言った瞬間、また二人して、年甲斐もなく笑い転げてしまいました。




しかし、笑いながら、次第に真顔に。




「この子、これからどうしたらいいのかなぁ……」




「家で育てていいのかしら?」




案の定、途方に暮れてしまいました。




すぐに外平獣医さんに相談すると、返ってきたのは――




「タヌキさんは、少し経ったら元のところに返すべきです。けっして抱っこしたり、愛情をかけたりしてはいけませんよ」




と、くぎを刺される言葉。




他のフェイスブック投稿者からも、




「自然に帰してあげてください」




という意見が多く寄せられました。


中には、針で刺すようなきついメッセージも。




「あなた、許可は取ってるの? 野生動物を勝手に飼っちゃダメですよ」




まるで、先行きを暗示するようなネガティブな反応でした。




「この子、どうしたらいいかねぇ……」




「わからない。うん、わからないなぁ」




瀕死の状態からようやく生を取り戻したこの小さな命。


でも――やはり元の場所へ返すべきなのでしょうか?


啓子も私も、真剣に悩み始めたのです。


-続-

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